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ニボルマブ(オプジーボ®)には、劇症I型糖尿病発症のリスクがあります

最新の学会/最新の論文から

2月25日に、日本臨床腫瘍学会と日本糖尿病学会の連名で、免疫チェックポイント阻害薬による劇症I型糖尿病のリスクに警告を発しました。

警告内容は以下です。全文を引用します。

(ただし、弊社では、自家がんワクチンと併用する、
アクセル・オン/ブレーキ・オフ戦略
を採用する場合、メーカー推奨用量よりも1/2~1/3程度に大幅減量してニボルマブを使用されることをご検討願っております。
少なくとも、2016年2月26日時点までには、劇症I型糖尿病発症例の報告はありません。リスク・ベネフィットについて、十ニ分にご留意いただければ、たいへん有り難く存じます。)

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免疫チェックポイント阻害薬に関連した劇症1型糖尿病の発症について

公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 大江 裕一郎
一般社団法人 日本糖尿病学会
理事長 門脇 孝

抗PD-1(programmed cell death-1)抗体をはじめとする免疫チェックポイ
ント阻害薬は、新たな機序による抗がん治療として注目されています。そ
のうち、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であるニボルマブ(オプジ
ーボ®)については、従来の「根治切除不能な悪性黒色腫」に加えて2015
年12月17日に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対しても承認
されたのを契機に、2016年1月21日付けで日本臨床腫瘍学会からその適正
使用について声明が出されたところです1)。その際には主に肺臓炎に関す
る注意喚起を行いました。

ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬による免疫反応活性化にと
もなう免疫学的有害事象として、甲状腺炎(甲状腺機能低下症など)、下
垂体炎(下垂体機能低下症など)などとともに1型糖尿病の発症が見られ
ることが報告されています2-5)。ニボルマブについては添付文書上も「1
型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)」が副作用として明記されています。

1型糖尿病は膵β細胞の破壊により絶対的インスリン欠乏に陥る疾患です
。中でも劇症1型糖尿病は、極めて急激な発症経過をたどり、糖尿病症状
出現から早ければ数日以内にインスリン分泌が完全に枯渇して、重篤なケ
トアシドーシスに陥る病態です。適切に診断し、直ちにインスリン治療を
開始しなければ死亡する可能性が非常に高い緊急事態です。しかし、劇症
1型糖尿病の可能性が念頭にないと、偶発的な高血糖として経過観察とさ
れたり、通常の2型糖尿病として誤った対応がなされて不幸な転帰をたど
ることも少なくありません。

免疫チェックポイント阻害薬使用中に急激な血糖値の上昇、もしくは口渇
・多飲・多尿・全身倦怠感などの糖尿病症状の出現を見た際には、劇症1
型糖尿病の可能性を考慮し、糖尿病専門医との緊密な連携のもと早急な対
処が必要です。患者に対しても、劇症1型糖尿病の可能性や、注意すべき
症状についてあらかじめ十分に説明しておくことが求められます。

劇症1型糖尿病は我が国で確立された疾患概念であり6)、患者は日本を中
心とする東アジア諸国に多く見られますが、これまで欧米ではほとんど報
告がありませんでした。したがって、日本では欧米よりも高率に劇症1型
糖尿病を併発する可能性も想定されます。また、すでに承認されたニボル
マブのみでなく、現在我が国でも治験が進められている抗PD-1抗体のペン
ブロリズマブについても劇症1型糖尿病の発症が報告されています2, 5)。

今後、こうした免疫チェックポイント阻害薬を臨床もしくは治験の現場で
使用されるがん薬物療法の専門家の皆様には、劇症1型糖尿病についても
熟知していただき、本疾患による死亡例が出ることのないよう、これら薬
剤の適正かつ安全な使用にご配慮いただきたく存じます。また、糖尿病専
門医の皆様には、免疫チェックポイント阻害薬が劇症1型糖尿病を含む1型
糖尿病の原因となりうることをご承知いただき、各施設のがん薬物療法専
門医などとの連携や劇症1型糖尿病に関する啓発に一層努めて頂きたいと
思います。各位のご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
【参 考】 劇症1型糖尿病診断基準(2012)
下記1~3のすべての項目を満たすものを劇症1型糖尿病と診断する。

1. 糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドー
シスに陥る(初診時尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認め
る。)

2. 初診時の(随時)血糖値が288 mg/dl (16.0 mmol/l) 以上であり、か
つHbA1c値 (NGSP)<8.7 %*である。

3. 発症時の尿中Cペプチド<10 μg/day、または、空腹時血清Cペプチ
ド<0.3 ng/ml かつ グルカゴン負荷後(または食後2時間)血清Cペプ
チド<0.5 ng/ml である。

*:劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は、必ずしもこの数
字は該当しない。

<参考所見>

A) 原則としてGAD抗体などの膵島関連自己抗体は陰性である。
B) ケトーシスと診断されるまで原則として1週間以内であるが、1~2
週間の症例も存在する。
C) 約98%の症例で発症時に何らかの血中膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパ
ーゼ、エラスターゼ1など)が上昇している。
D) 約70%の症例で前駆症状として上気道炎症状(発熱、咽頭痛など)、消
化器症状(上腹部痛、悪心・嘔吐など)を認める。
E) 妊娠に関連して発症することがある。
F) HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01との関連が明らかにされている。

文献:

1) https://www.jsmo.or.jp/file/dl/newsj/1610.pdf
2) Hughes J, Vudattu N, Sznol M, et al. Precipitation of autoimmune
diabetes with anti-PD-1 immunotherapy. Diabetes Care 2015;38:e55-e57.
3) Martin-Liberal J, Furness AJ, JoshiK, et al. Anti-programmed cell
death-1 therapy and insulin-dependent diabetes: a case report. Cancer
Immunol Immunother 2015;64:765-767.
4) Mellati M, Eaton KD, Brooks-Warrell BM, et al. Anti-PD-1 and anti-
PDL-1 monoclonal antibodies causing type 1 diabetes. Daibetes Care
2015;38:e137-138.
5) Gaudy C, Clévy C, Moestier S, et al. Anti-PD1 pembrolizumab can
induce exceptional fulminant type 1 diabetes. Diabetes Care
2015:38:e182-e183.
6) Imagawa A, Hanafusa T, Uchigata Y, et al. Fulminant type 1
diabetes: a nationwide survey in Japan. Diabetes Care. 2003;26:2345-
52..

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