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第28回日本バイオセラピィ学会から-抗炎症、抗CD4抗体の件

最新の学会/最新の論文から

2015.12.03-04に、第28回日本バイオセラピィ学会が川越市で開催されました。そこから、重要と思われる話題を記載します。

この学会は、本来、Biological Response Modifierの開発を目指していたためか、昨年までは参加者が減少し続けていたものの、今年は突如として250人参加、発表演題数が90題と大幅増加、奨励賞を2人出した、というのが会長(柴田昌彦埼玉医大教授)のご自慢でした。明らかに昨年のニボルマブ承認ショックが効いていると思われ、がん免疫療法の時代が具現化したと思われます。

今年の大きなテーマは“炎症”で、会長講演のタイトルが「なぜ炎症?いま炎症?」とあり、癌性炎症の関与とその排除が治療に重要という趣旨でした。

ただ、会長講演で指摘されていたのは、担癌状態でも、炎症を起こすpro-炎症状態と逆のanti-炎症状態が交互に起こることがある【抄録では、SIRS (systemic inflammatory response syndrome), CARS (compensatory inflammatory response syndrome), MARS (mixed anti-inflammatory response syndrome)と同様な免疫病態、と書いてある】といい、注意を要するといいます。

免疫抑制性のMDSCが炎症によって誘導・増強される、炎症によって産生されるVEGFもまたがん患者で血中濃度が上昇し、MDSC活性化の原因となっているとのことです。

別の演題(当社提携医療機関、京都・百万遍クリニック・坂元直行先生)でも、血中VEGFががん進行状態のマーカーとなると指摘されていて、この会全体としては、がん性炎症を抑えた方が良い、というのが参加者のコンセンサスでした。

具体的には非ステロイド性消炎鎮痛剤NSAIDSのセレコックス(celecoxib、COX-2の選択的阻害剤)の併用が推奨されています。従来から、NSAIDSの併用によりがん再発防止が喧伝されていますが、より特異性が高く消化管に対する高い安全性があるものが良いとされているのです。

今回の白眉は、何と言っても松島綱治先生(東大医科研)の特別講演でした。

松島先生は、HTLV-Iウイルス感染により起こる白血病(Tregがガン化した)ATLLを一挙に激減させる抗CCR4抗体の開発者です。協和発酵キリンが抗CCR4抗体を脱フコシル化(ポテリジェント化)して発売していますが、ATLLが完全に治癒しない例があり、どうしてもアロ骨髄移植が必要だとのことで(5年で50%生存、50%は移植に伴って起こるGVHDで死亡)、GVHD対策としてアロのCD4+T細胞をパージする抗CD4抗体を研究していたのです。

ところが、マウスの癌が抗CD4抗体投与で激減することを発見、ヒト化抗CD4抗体の開発の真っ最中だそうです。

注目すべきは、抗CD4抗体の作用機序でした。担癌マウスに抗CD4抗体を投与すると、Tregのみならず、Th2, pDC, NKTなども消失します。その後、抗原特異的CD8+メモリーT細胞の増殖がリンパ節で起こり、それががんに浸潤して強力な抗腫瘍効果を示す、としていました。

B16F10担癌マウスに週2回、抗CD4抗体をi.p.、これを2サイクル行えば2-4週間の間CD4+なしとなり、その後ゆっくりとCD4+細胞が回復してきます。その際、long term CD8+ memory T細胞が通常の100倍もできてきますが、これを抗CD8抗体で潰すと、癌が増殖してくることから、キラーCD8+ T細胞が活躍していることがわかります。

このCD8+ T細胞は大量のTNF, IFNgを産生、CXCL10, FasL, PRF1, Granzymeを発現、これらによって癌細胞の増殖が抑え込まれ、CD44+もPD-1+もCD137+も増えているそうです(CD137=4-1BB はresting T 細胞の表面には普通ないが、活性化されると誘導されるTNF受容体スーパーファミリーの一つ。→ http://syodokukai.exblog.jp/20232252/ )。

何故CD4+ TをパージするとCD8+ Tが増えるのかはナゾですが、松島先生は、CD326-(epithelial cell adhesion molecule (EpCAM)が発現していない)樹状細胞がCD80, CD86を発現して成熟、リンパ節に移動し、そこでlatent Ag-specific, Ag-primed CTL in the draining lymphnodeを強力に刺激し増やすという、homeostatic proliferationが起こったためではないか、と推定していました。

抗CD4抗体単剤による医師主導治験phase Iを2016年から開始するそうですから、臨床で効果を再現できれば、がん免疫療法の時代は大きく進展すると思われます。

これに関連する要望演題を国立がんセンター東病院・中面先生のグループが発表していました。

マウスモデルでOVA257-264ペプチドワクチンを用い、EG7、マウスメラノーマMO4の脾臓内注入肝臓転移モデルで検討。抗CD4 抗体投与翌日には、血中CD4+ Tが激減、そこにOVAワクチンを投与し、EG7腫瘍がなくなり、ELISPOT assayではウエルが真っ赤になるほど、IFNg産生リンパ球が増えていることを観察していました。

この後、OVAワクチンと抗CD4 抗体の投与順を検討、
・Day 0: 抗CD4 抗体 → Day 1: OVA vaccine → Day 7: OVA vaccine
→ Day 14: IFNg ELISPOT assay
よりも、
・Day 0: OVA vaccine → Day 6: 抗CD4 抗体 → Day 7: OVA vaccine
→ Day 14: IFNg ELISPOT assay
という順が最も強力な活性を示すそうです。

この結果は、最初のCTL誘導にはやはりCD4+ helper T細胞が必要だとい
うことを示しています。

これらの報告から推察しますと、

がんワクチン投与
     → 抗CD4抗体投与
        → 抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体投与

という治療スキームが、近い将来、樹立されていくのではないかと予想され、当社の「自家がんワクチン」がこの最初の段階で役に立てると考えられます。