日本語 English

文字サイズ

サイトマップ
初めての方へ 無料相談・お問い合わせ 029-828-5591 日曜・祝日を除き 9:00-17:30

自家がんワクチン療法後の再発脳腫瘍中の免疫細胞

最新の学会/最新の論文から

脳腫瘍のうち、膠芽腫はがんの中でも「最悪中の最悪」と言われています。なにしろ、脳内にできるがんのうちでも最速で増殖し、正常脳内に深く浸潤するため、手術で全部取り切ってしまうのは不可能で、必ず再発するとされているからです。

初発膠芽腫に対する標準療法は、「手術+放射線60Gy+抗がん剤テモダール」のテンコ盛りですが、それでも全生存期間中央値は14.6ヶ月にすぎず、2017年現在でも、5年生存率は10%ほどとされています。

再発を抑制するとして、本邦で承認されているアバスチンを標準療法に追加しても、膠芽腫の延命効果は見られません。

しかし、自家がんワクチンが膠芽腫に対して延命効果があることは、これまでに学術論文(Ref. 1, 2, 3)や、弊社ホームページのうち、

脳腫瘍のページ(3つあります)
→ http://cell-medicine.com/cases/clinicaltest_braintumor_1.html
→ http://cell-medicine.com/cases/clinicaltest_braintumor_2.html
→ http://cell-medicine.com/cases/clinicaltest_braintumor_3.html

でもお知らせして参りましたが、さらに、このほど筑波大学脳神経外科から、膠芽腫に関する新たな学術論文(Ref. 4)がOn-Line出版されました。

今回の論文はちょっと変わった視点からの研究です。膠芽腫の初期治療に失敗し(これが膠芽腫ではごく普通の経過です)再発しますと、再手術を実施する場合があります。この再手術標本に種々の免疫染色を施し、1回目の手術標本からの変化を読み取ろうとしたのです。

標本は全部で16症例分あり、うち4例は、自家がんワクチン療法の受診者です。他に4例の陽子線治療の受診者も入っています。つまり、標準療法に自家がんワクチン療法や先進医療である陽子線治療を追加してもうまく行かなかった症例も含めて、あえて2回手術した失敗例ばかり取り上げたという次第です。

その結果はたいへん興味あるものでした。

膠芽腫組織中にPD-1を発現している細胞の割合をスコア化して、スコアが高い症例群(high、9例)と低い症例群(low、7例)に分類してみると、1回目の手術標本では、両群とも大体同じようなスコアのバラツキ分布を示したのに対し、

2回目の手術標本では、1回目の手術標本でhigh群に分類された群のスコアがさらに一層高くなっていました(p=0.020)。

しかし、1回目の手術標本でlow群に分類された群のスコアは変化なしでした。

これは、PD-1発現細胞(ほとんど全部膠芽腫中に入り込んだリンパ球です)が、1回目の手術時に膠芽腫中に多かった症例(high群)では、手術後から再発して2回目の手術に至る間に、さらに増加したことを示しています。

しかも、このhigh群9例中に、自家がんワクチン療法受診者4例が全員入っていて、スコアの上昇率も1.6~1.7倍と、目立って大きくなっていました。

一方、陽子線治療受診者4例は、他の通常の治療を受けた症例と同じようにhigh群とlow群に2例ずつ分かれていて、自家がんワクチン受診者のようなはっきりとした変化傾向は示していません。

このことは、膠芽腫組織中にリンパ球が入り込んでいる(細胞性免疫反応を起こす準備ができている)症例では、自家がんワクチンの刺激により、ますます積極的にリンパ球が入り込むようになったのではないかと考えられます。

全体の症例数が少ない上に、自家がんワクチン療法により初期治療がうまく行っている症例は再手術をしないため含まれていませんので、ここで検査対象とした症例群には、強い症例選択バイアスがかかっていると考えなければならず、断定的なことはまだ言えません。

しかし、膠芽腫の専門家中の専門家が論文審査をしてから初めて出版される国際的な学術誌に、この検査結果が掲載されたということは、専門家もやはり同じ方向、すなわち、「自家がんワクチンによる免疫療法により、脳腫瘍組織中にリンパ球が積極的に入り込むようになった」と推定していることを示しています。

今後、より多くの症例が蓄積できたとき、
————
「自家がんワクチン療法により、体内の抗がん戦闘員(キラーリンパ球)が一層がん組織内に集合し、がん細胞と戦うようになっている」(再手術した例ではがん局所での戦いに勝ててはいないが、再手術不要な治療成功例では、がん局所の戦いに勝ったのだ)
————
という仮説が証明できると、期待できそうです。

References

1.Ishikawa, Eiichi; Tsuboi, Koji; Yamamoto, Tetsuya; Muroi, Ai; Enomoto, Takao; Takano, Shingo; Matsumura, Akira; Ohno, Tadao: A clinical trial of autologous formalin-fixed tumor vaccine for glioblastoma multiforme patients. Cancer Sci., 98(8):1226-1233, 2007.

2.Muragaki Y, Maruyama T, Iseki H, Tanaka M, Shinohara C, Takakura K, Tsuboi K, Yamamoto T, Matsumura A, Matsutani M, Karasawa K, Shimada K, Yamaguchi N, Nakazato Y, Sato K, Uemae Y, Ohno T, Okada Y, Hori T. : Phase I / IIa Trial of Autologous Formalin-fixed Tumor Vaccine Concomitant with Fractionated Radiotherapy for Initially-Diagnosed Glioblastoma.J Neurosurg. 2011 Aug;115(2):248-55.
Erratum : J. NeuroSurgery, 2013;118(3):709.

3. Ishikawa E, Muragaki Y, Yamamoto T, Maruyama T, Tsuboi K, Ikuta S, Hashimoto K, Uemae Y, Ishihara T, Matsuda M, Matsutani M, Karasawa K, Nakazato Y, Abe T, Ohno T, Matsumura A. : Phase I/IIa trial of fractionated radiotherapy, temozolomide, and autologous formalin-fixed tumor vaccine for newly diagnosed glioblastoma. J Neurosurg. 2014 Sep;121(3):543-53.

4. Miyazaki T., Ishikawa E., Matsuda M. et al. Assessment of PD-1 positive cells on initial and secondary resected tumor specimens of newly diagnosed glioblastoma and its implications on patient outcome. J Neurooncol (2017). First Online: 26 April 2017. doi:10.1007/s11060-017-2451-7