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T細胞表面のCD28分子をむやみに刺激するのは危険だった

去る4月13日に、第2回癌治療への再生医療応用研究会(尼崎市)に呼ばれ、『免疫細胞療法および生細胞を含まない「自家がんワクチン」療法』と題して弊社・大野が講演してきましたが、講演終了後の懇談会で、意外にも、外科系の先生方がイギリスで起きたCD28スーパーアゴニスト抗体による治験中の惨事について知らないとのことでしたので、ここで改めてお知らせします。

 簡単な第一報は、バイオテクノロジージャパンのニュースページ( 
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2006032737966&id=0 )
に、
「2006年3月13日、英国Londonの北西部に位置するNorthwick Park病院で始まった、独TeGenero社完全ヒト化モノクローナル抗体製剤「TG1412」のフェーズI試験は、真薬群の被験者6人全員が次々と集中治療室に運ばれる結果となった。」と出ています。

 この抗体医薬は、T細胞表面のCD28分子に結合、T細胞を活性化できるものです。その作用が非常に強いために、superagonistic anti-CD28 antibodyと呼ばれています。

 その作用機序の解説は、
→ http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=121
のページの下段の、関連資料・リンク等 ※3 TIP誌「TGN1412 第1相試験事件は不可避だったか?」をクリックするとpdfファイルで出てきます。

 端的にいえば、CD28分子は、T細胞レセプター(TCR)を介するペプチド抗原刺激信号を強化する補助分子で、通常はTCRと同時に(ただし別の接着分子により)CD28が刺激されるとT細胞は活性化しますが、CD28スーパーアゴニスト抗体は、ペプチド抗原も接着分子の補助も受けずに抗体分子単独でT細胞を活性化できます。特に抑制性T細胞(Treg)を強く活性化できることから、慢性関節リウマチの治療薬として期待されていたものです。

 しかし、今回の治験phase Iでは、T細胞を強烈に刺激したため、一挙にサイトカインを放出、サイトカイン・ストームを生じ、炎症を引き起こすサイトカインによる多臓器不全に陥ったと解釈されています。

 もちろん、事前に、マウス、ラット、ウサギ、サルを使って安全性を確かめた上で、動物の最大安全量の1/500をヒトに注射していますが、もともとヒトCD28を抗原として開発された抗体であったため、動物には強烈な作用を示さず、ヒトでもたぶん安全だろうという誤解を生んだのではなかったかと推定されます。

 免疫反応では動物種差が常に大きな問題になります。すでにマウス等の動物実験ではすばらしい効果を示す腫瘍ワクチンが、ヒトでは全く役に立たない場合が非常に多い、という点は広く知られた事実です(それゆえにこそヒトで有効だという臨床データがある「自家がんワクチン」は貴重なのです)。今回は丁度この裏返しのような事件でした。

 今回の事件を機に、非臨床試験における安全性確認について規制強化される可能性が高くなりましたが、はたして動物実験を徹底的に繰り返したとしても意味があるのでしょうか。ヒトにおける安全性については、特に免疫反応が関与するものについては、ヒト由来材料による代替実験系を用いて(ヒト個体の部分的な反応がわかるにすぎないとしても)、個体反応全体を推定する、という新しい考え方の導入が必要だと思います。