がんワクチンには、がん抗原ペプチド、または、その原料となるタンパクを加える方法もあります。
これらを「がん抗原ペプチドワクチン」または「がん抗原タンパクワクチン」と呼びます。
がん抗原は、がん細胞の中で発現していて正常細胞では発現していない遺伝子やその産物であるタンパクを探す方法で発見できます。こうして見出されたのがMAGE遺伝子です。1991年にベルギーのテリー・ブーンのグループが世界で最初に発見しました(Science 254:1643-1647, 1991.)。
この遺伝子はメラノーマ(悪性黒色腫、皮膚がんの一種)から発見されましたが、いろいろな種類のがんでも発現しており、正常組織では精巣と胎盤などにしか発現していないという特徴があります。
詳細に調べてみると、MAGE遺伝子産物であるタンパクのごく一部、わずか9-10個のアミノ酸が繋がったペプチドが、がん細胞表面のMHC class I分子の上に載って細胞表面に出ていれば、キラーT細胞(CTL)が「異常」と認識し、がん細胞を殺すことが判りました。
このようなペプチドががん細胞だけに特異的に発現しているならば、体内の免疫系が「異物」と認識するように無理やり刺激してもかまわない、しかも9-10個のアミノ酸残基の短いペプチドなら簡単に合成できる、もし、新しいがん抗原ペプチドが見つかれば新しいがんワクチンが作れるに違いないと考えられます。
しかし、残念なことに、1種類のがん抗原ペプチドをワクチンとして投与しても、臨床効果がほとんどでないことから、数種類の合成がん抗原ペプチドを混ぜた「がん抗原ペプチドワクチン」や、ペプチドが切り出される元のがん抗原タンパク自体をワクチンにした「がん抗原タンパクワクチン」が開発され、現在、その臨床効果が検討されていますが、実際には数種類のペプチドを抗原にするよりも、述べた患者様本人の腫瘍組織そのものを抗原にした方が効果が明瞭に高いことが判っています。
もちろん、自家がんワクチンと合成ペプチドワクチンの両者を併用すればもっと大きな効果が出る、と期待しても問題ありません。
がん抗原ペプチドワクチンの特徴
長所
化学合成できますから、安く大量に作れます。
短所
一種類のがんペプチドだけではあまり強いがん治療効果がないということが、欧米の研究ですでに判っています。たくさんの種類を合成するのはたいへん面倒なことです。そのために、現在では4-5種類のがんペプチドを混ぜて効果が出やすいようにしています。それでも種類不足だといわれ、10種類以上も混ぜて治療効果を研究しているところさえあります。また、がん細胞の表面にある「MHCクラスI抗原」というたんぱく質の遺伝子型によって、「がん抗原だ」という情報が表面に出たり出なかったりするため、遺伝子型が合わないと、がんペプチドワクチンによる治療ができないことがあります。
がん抗原タンパクワクチンの特徴
長所
がん抗原たんぱく質から切り出されてできるがんペプチドの種類は多数ありますが、切り出し役の抗原提示細胞の中でがんペプチドを作らせ、「MHCクラスI抗原」の遺伝子型に合うものを選択させるため、どんながん抗原ペプチドができるかや患者様の遺伝子型を気にする必要がありません。
短所
巨大な分子であるがん抗原たんぱく質そのものを、一種類だけでも安定的に大量生産するのはたいへん難しい技術です。そのため、非常に高価になります。