最悪の脳腫瘍でもしっかり切除すれば自家がんワクチンは効くという論文が出ました 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

トピックス

最悪の脳腫瘍でもしっかり切除すれば自家がんワクチンは効くという論文が出ました

最新の学会から 

脳腫瘍の中でも“膠芽腫”という種類は、がんの中でも“最悪中の最悪のがん”として知られています。

膠芽腫は、脳内で浸み込むように周囲に広がっていくため、手術で完全に切除した(画像上では見えなくなった)はずでも、必ず再発して来て、急速に増殖し、悪化していくという性質があります。

現在の標準治療法は、Stuppが2005年に発表した「Stuppレジメン」と言われるもので(Ref. 1)、
手術+放射線治療+抗がん剤(テモダール)治療
です。

手術後、初めて膠芽腫と診断されてからの、
●  患者さんの半数が生き残る全生存期間中央値
. (mOS)= 14.6ヶ月
●  患者さんの半数が悪化しない無増悪生存期間中央値
. (mPFS)= 6.9ヶ月
とされています。

日本で行われた大規模な臨床試験でも、Stuppレジメンでは、
. (mOS)= 20.3ヶ月
. (mPFS)= 10.1ヶ月
でした(Ref. 2)。

後から開発された血管新生阻害剤アバスチンもmOSを延ばすことはできず(延命には役に立たず)、手術中に脳腫瘍をとった後の脳の中に置いてくるギリアデルの効果もいまいちとされています。

脳に常時交流電場をかけて膠芽腫細胞の分裂を抑制できるオプチューンという機械を用いても、診断後なら(mOS)= 24.5ヶ月
です。しかしこの方法は、診断後4ヶ月ほどが過ぎてもある程度状態の良い患者さん用で、標準治療にはなっていません。

現在、各種のがんで良く効くとされている免疫チェックポイント阻害剤(オプジ-ボやキイトルーダ等)も膠芽腫には効きません。

がんペプチド抗原を用いたペプチドワクチンも、樹状細胞ワクチンも膠芽腫治療で成功したとの報告は未だなく、決定打とされる第III相臨床試験では全滅状態です。

そのため、Stuppレジメン(*)は全世界で15年以上も標準治療のままなのです。

いかに膠芽腫治療が難しいか、ご理解いただけますでしょうか。

しかし、です。

この度、筑波大学脳神経外科から発表された論文(Ref. 3)では、一つのブレークスルーの可能性が示されました。

筑波大学の膠芽腫症例のみで、過去11年間の277例の膠芽腫患者の予後を解析してみたところ、標準治療の他に、陽子線治療を含む様々な治療を受けた症例を加えた、
. 全体の277例では mOS = 16.6ヶ月
でしたが、

その中で、膠芽腫がMRI画像上では全部(100%)摘出できた全摘群の91例では、
. mOS = 26.5ヶ月
でした。

このうち、
(1) 全摘+標準治療のみの群では、
. mOS = 25.7ヶ月

さらにその中で、がん免疫療法(自家がんワクチン、インターフェロンβ、その他のいずれか)を上乗せ治療した、
(2) 全摘+標準治療+がん免疫療法群(24例)では、
. mOS = 36.9ヶ月
となりました。

上の(1)(2)の間には、統計学的な有意差があり、
. log-rank検定、p=0.008
でした。

さらに、(2)の群では、なんと、
. 5年生存率が43.3%
もありました。

(2020年現在でも、一般的にはどんなに治療を頑張っても、5年生存率は10%程度とされています。)

しかも、(2)のがん免疫療法群24例中では、
. 自家がんワクチンは20例(24例中の83%
もありますから、がん免疫療法群ではほとんどが自家がんワクチンによる効果だったと推定できます。

そこで、
(3) 全摘+標準治療+自家がんワクチン療法
(20例)に絞り込んでみましたところ、
. mOS = 34.4ヶ月
と少し短くなりましたが、
. 5年生存率が40%
にも達していました。

やはり、(1)(3)の間にも、統計学的な有意差がありました(ここまで論文には書いてありませんが、筆者が論文の第一著者に確認しています)。

つまり、膠芽腫の治療では、
●  先ずは手術でしっかり切除して(全摘し)、
●  Stuppレジメンの標準治療を行い、
●  自家がんワクチン療法を上乗せ
すれば、
.  患者さんの半数は3年以上生き延びられる
.  患者さんの4割は5年生存を達成できる
ということになります。

“最悪中の最悪のがん”である膠芽腫の治療でも、自家がんワクチン療法による革新的な時代の幕開けが近づいているのです。

References

1. Stupp R. et al.
Radiotherapy plus Concomitant and Adjuvant Temozolomide for Glioblastoma.
N Engl J Med 2005;352:987-996.

2. Wakabayashi T, et al.
JCOG0911 INTEGRA study: a randomized screening phase II trial of interferonβ plus temozolomide in comparison with temozolomide alone for newly diagnosed glioblastoma.
J Neuro-Oncology 2018;138:627-636

3. Ishikawa E, et al.
Maximum resection and immunotherapy improve glioblastoma patient survival: a retrospective single?institution prognostic
analysis.
BMC Neurol 2021;21:282
https://doi.org/10.1186/s12883-021-02318-1


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