膠芽腫においても、自家がんワクチンの治療効果が期待されています。
膠芽腫は、脳腫瘍のうちでも非常に悪性のがんです。
脳腫瘍は、その悪性度によって、グレードI~IVに分類されています。特にその中でもグレードIVの膠芽腫(Glioblastoma multiforme, GBM)は、ガンの中でも最悪中の最悪といわれ、旧来の治療法では、患者の90%以上が5年以内に死亡しています。
しかし、そのような膠芽腫において、自家がんワクチンの治療効果が期待される臨床試験結果が見られています。使用した原料は、過去の手術で摘出されホルマリン固定・パラフィン包埋されていた腫瘍組織です。
初発膠芽腫の治療効果(手術+放射線治療+テモダール+ワクチン)
日本では、2006年7月より、グレードIVの膠芽腫(GBM)の標準的治療法として、初発患者に対し「手術+放射線治療+テモダール投与」が行われておりますが、これでも全生存期間中央値(MST)は14.6ヶ月で、「手術+放射線治療」のみの場合の12.1ヶ月に比べ、中央値がわずかに2.5ヶ月増加するにすぎません(図1)。
これは、手術や放射線による局所治療で叩ききれなかった辺縁部の残存腫瘍が、テモダールの使用でもわずかな延命効果しか得られなかったことを示しています。
そこで我々は、現在の標準治療である「手術+放射線治療+テモダール投与」に加えて自家がんワクチンを投与することで、局所治療により除去しきれなかった辺縁部の腫瘍細胞を攻撃することを考えました(図2)。
投与スケジュールは、手術後の放射線治療+テモダールの併用療法が終了し、テモダールのみの治療が始まる時に、テモダールと同時に自家がんワクチンを1週間間隔で3回投与することとし、その前後に皮内テストを実施しました。
一般的に、放射線治療とテモダールを併用する期間は、リンパ球が減少してしまいます。そのため、その後の回復期を狙って自家がんワクチンを実施することとしました。(図3)
そして実際に行われた「手術+放射線治療+テモダール投与+自家がんワクチン投与」による臨床試験の結果、生存期間の中央値が22.2ヶ月まで改善されることが分かりました(図4)。
(Journal of Neurosurgery 2014, Jul 4:1-11. [E-pub ahead of print])
また、長期に渡り患者様が生存された指標となる3年生存率についても、標準治療と比較して大幅に改善されていることが分かりました。(図5)
肝臓がんでの臨床試験と同様に、この試験においてもワクチン群のすべての患者さんは自家がんワクチンを1コースしか受けておらず、1コースのワクチン投与だけで上記の結果が得られています。
さらにこの試験では、論文発表後に、予後のフォローアップ調査が行われ、優れた延命効果が示されています。
特に、海外の治験では、治験に参加した症例群の元気さを表すKPS値が70%以上であったことから、それに合わせ、上に述べた「標準治療+自家がんワクチン」の症例群から、KPS60%の症例を除外し、KPS70%以上の症例群に絞りこむと、自家がんワクチン群の3年生存率が54%と、格段に高くなりました。(図6)
図6中の星印は、KPS70%以上の症例群によって実施された2つの欧米における治験で達成された3年生存率の位置を示しています。
これらの成績に比べれば、自家がんワクチンには優れた効果があることがわかります。
さらに、筑波大学脳神経外科では、2021年7月、初発膠芽腫を「(画像上では)全部摘出する手術+放射線治療+テモダール投与+自家がんワクチン投与」により、全生存期間中央値(mOS)が34.4ヶ月、(3年生存率ではなく)5年生存率が40%という、従来報告されたことがない好成績を達成しています。
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