免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ、ヤーボイ等)が市販されて以来、肺がんとともに患者数が多い大腸がん、乳がんにも有効ではないかと世界中で試されてきましたが、なかなかうまく行きませんでした。
大腸がんについては、一部のMSI-High(マイクロサテライト不安定性が高頻度)の大腸がんであれば、キイトルーダが有効で、本邦でも承認されています。しかし、乳がんは免疫チェックポイント阻害剤が無効だとされたままとなっていました。
そのため、乳がんはがん抗原性がなく免疫療法が効かないがん種なのではないかと疑われ、難問として残されてきていましたが、これに答える成果が今年の2月1日に、米国立がん研究所のRosenbergのグループから発表されました(Ref.1)。
このグループは、もともとLAK(活性化リンパ球)療法の開発者でしたが、LAK療法ががんには実質的に無効と自ら発表、TIL(腫瘍浸潤リンパ球)輸注療法に切り替え、長らく開発を継続してきたグループです。
今回の論文では、乳がん転移部位からリンパ球を分離して培養、増殖したTILで、アミノ酸置換がある変異を認識しネオアンチゲンに反応することを確認したTILを患者に輸注し治療、その際、キイトルーダを併用(4回投与以下)しています。
その結果、42例(転移乳がんで6~563個/症例の変異がある)のうち28例でネオアンチゲン反応性のTILを調製、8例で実際に輸注したところ、3例で乳がんが縮小、うち1例が完全寛解(CR、5.5年以上経過)、2例が6ヶ月と10ヶ月間部分寛解(PR)となったとのことです。
つまり、3/8(37.5%)で奏功したという成果を上げています。
このことは、乳がんでも、がん細胞中のタンパクにアミノ酸置換が起こる変異があるなら、がん抗原性を示し、体内のキラーリンパ球(この場合はTIL)により排除され得ること、即ち、他のがん種と同じようながん免疫反応性があることを示しています。
確かに、乳がんのがん抗原性を証明した立派な研究成果だと思います。
ただし、このようなTILが調製できて投与に至った症例数が8/42(19%)しかないことから、患者として利益が得られる割合は、3/8 x 8/42 = 7.1%しかないのです。
このため、がん免疫細胞療法の一つであるTIL輸注療法も、実用性という観点からすれば、まだまだ将来の発展性に危うさが感じられるものに止まっています。
Reference
1. Zacharakis N,,,,,,,,,,,, Rosenberg SA
Breast Cancers Are Immunogenic: Immunologic Analyses and a Phase II Pilot Clinical Trial Using Mutation-Reactive Autologous Lymphocytes.
J Clin Oncol. 2022 Feb 1;JCO2102170. doi: 10.1200/JCO.21.02170.
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