学術論文の世界では、もともとの生データを基にして、初めて学問的に記述した論文が「原著論文」と呼ばれます。実験や臨床試験を行う研究者としては、原著論文の発表がその研究の一つの重要なゴールとなっています。
ただ、同じ研究領域であっても、複数の原著論文に書かれた結論が同じならまだしも、生物学や医学では、ときに同じ結論にならず、最初の原著論文に書かれた結論と一致しない結論が記載されることは珍しいことではありません。はなはだしい場合は全く逆の結論になったりします。
特に臨床医学では、生き物としてはバラツキが激しいヒトが研究対象ですから、ある薬が効くか効かないかで論争が発生するのは日常茶飯事です。
そこで、ある段階まで研究が進み、複数の原著論文が出てくると、その治療法がどのくらい確かなものなのかについて評価を下す「総説論文」が書かれます。研究者にとっては、自著の原著論文が総説論文の中に取り上げられ、言及され評価されることが第2のゴールとなります。
総説論文の中でも、単に記述式にて原著論文の良し悪しを評価するだけではなく、なるべく多数の原著論文の結果を統合して、統計学的な処理を加え、特定の要因(例えば、ある新薬)が、疾患にどう影響しているか(治療効果を示しているか)について、どのくらいの信頼性があるかを統計学的に解析した(メタ解析といいます)論文は、学術関係者間では高い評価が与えられています。
この段階に至るまで自著の原著論文が取り上げられ、メタ解析で多数の論文全体のなかで統計学的な位置づけがなされて評価が固まっていくのが、第3のゴールとなります。
本邦では、臨床試験として行われた(エビデンスレベルが最も高いはずの)複数のランダム化試験を集め、そのメタ解析で当該新薬が間違いなく有効だと証明されない限り、信用できない、という極論もあるほどです。
治療が難しいがん領域でも、特に難治性で知られる脳腫瘍のうちの“膠芽腫”では、メラノーマや肺がんで大成功したオプジーボ等の免疫チェックポイント阻害剤でさえ、全く無効、との評価が既に固まっています。
では、膠芽腫に対する他のがん免疫療法の効果はどうかと言えば、現在まさに世界中で論争の最中というところです。
本年4月19日、できるだけ多くの医学データベースを検索して膠芽腫に関する原著論文を集め(346報もありました)、記述内容の重複の有無や臨床試験のデザインの良し悪し等の品質をふるいにかけて徹底的に絞り込み(346報→153報→53報→12報まで)、残った12報のメタ解析によって、各種のがん免疫療法の評価を加えた総説論文が発表されました(Ref. 1)。
その総説論文の結論では、
~~***~~
ワクチン接種は、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、および生存期間の長さでみて有望な効果を示す免疫療法で、悪性グリオーマ患者の治療において有効です。
また、AFTV*、ペプチド、および樹状細胞ベースの ワクチンは、グリオーマに対して最も効率的なワクチ ンの一部です。
~~***~~ (* AFTVは自家がんワクチンの略称)
と述べられています。
またこの論文の考察(p.10, 第3段落)には、
~~~~~
今回のメタ分析では、AFTVはOSとPFSの率を大幅に向上させ、より長い生存期間をもたらしました。AFTVと他のワクチンを比較した結果、樹状細胞ベースのワクチンやB細胞ハイブリドーマおよびTICワクチンを含む他のワクチンよりも、生存期間に対する効果が優れていました。
~~~~~
と述べられています。
膠芽腫に対する原著論文では、検証的試験とされているランダム化第III相臨床試験にまで進んだ結果の論文が未だに非常に少ないため、今後さらなる原著論文の蓄積があり次第、再度のメタ解析がされることと思われます。
それとともに今回の総説論文の結論も考察も変化する可能性がありますが、その著者ら(※)の現時点における考え方として、一考に値すると思われます。
(※)国際会議等でも弊社関係者とは面識もない方々で、全く独立に研究結果を出しています。
学術論文を発表すれば、世界の誰かが必ず見ていることを如実に示しています。
がん免疫療法の実力は世界に向けた学術論文の有無、その数と質で評価できるのです。
自家がんワクチン療法に関する学術論文(主要原著論文)のリストは、
⇒ こちらにあります。
自由診療にてがん免疫療法を受診されるときは、実力のあるがん免疫療法をお選びく
ださい。
Reference
1. Amanzadeh Jajin E, Oraee Yazdani S, Zali A, Abolghasem Esmaeili A:
Efficacy and Safety of Vaccines After Conventional Treatments for Survival of Gliomas:
A Systematic Review and Meta-Analysis.
Oncol. Rev. 18:1374513. doi: 10.3389/or.2024.1374513