――――――【キーポイント】――――――
乳がん手術後の標準治療になっている放射線治療ですが、見方を変えるとムダな治療だそうです。いいのでしょうか?
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早期乳がんの手術では、現在は、乳房温存療法が主流となっていて、しかも術後、乳房全体への放射線照射を行うのが標準治療となっています。
この術後の放射線照射は乳がんの局所再発を抑えます。他の治療法も加味すると、術後10年目には局所再発率は約5%にまで下がります(Ref. 1)。
しかし、よく知られているように乳がんの再発は、術後20年以上でも起こります。
そこに(術後10年超以後に)目を向けてみると、実は、乳がんの局所再発リスクにも、術後の全生存期間(OS)にも、
放射線治療群でも非治療の対照群でも、差はありませんでした
という大規模なランダム化試験の結果が、今年の夏に発表されました(Ref. 2)。
なにしろ、スコットランドで589人の乳がん患者を30年も追跡調査してきた第III相試験の結果ですから、ガチガチに固められた結論です。
OSでは、
対照群の中央値: 18.7年(95%CI 16.5-21.5年)
放射線治療群の中央値:19.2年(95%CI 16.9-21.3年)
でした。
この論文の著者らは、
「我々の調査結果によると、早期乳がんの乳房温存手術後に10年後以上の遅い再発が予測される患者では、補助放射線療法から得られる利益が少ない可能性がある。」
と、いかにも英国人らしい紳士淑女的説明をしていますが、要するに、
「術後10年は再発しそうもない患者には、放射線治療はムダだ」
ということです。
もちろんこの論文でも、術後10年以内なら局所再発率は、
対照群では: 36%(107/294)
放射線治療群では:16%(46/291)
p<0.0001
と明瞭に低いことを記載しています。その意味に限れば、現在の標準治療はムダとは言えません。
現在、早期乳がん治療で欠落しているのは、
「術後10年は再発しそうもない」かどうかを見極める技術がない
そのため、早期乳がんなら、どの患者にも術後にどんどん放射線をかけてしまう
という点ですね。そこで弊社では、
「術後10年は再発しそうもない」かどうかを見極める技術の開発のために、通常3年程度の期間しかない日本政府の研究開発費支給を、もっと長い期間に渡って継続的に支給する制度も作ってほしいものだと願っています。
Ref. 2の論文の著者も、
「乳がんの術後10年以上に渡ってしっかりとフォローアップ調査をした論文が少ないのは、trial grants(臨床試験研究費)の支給期間を10年で切ってしまい、なくなるからだ」
と嘆いています。
References
1.Solin LJ.
Breast conservation treatment with radiation: an ongoing success story.
J Clin Oncol 2010; 28: 709-11.
2.Williams LJ, et al.
Postoperative radiotherapy in women with early operable breast cancer (Scottish Breast Conservation Trial): 30-year update of a randomised, controlled, phase 3 trial.