「老化に伴って免疫系の機能が低下し,高齢者は感染抵抗性が低下する」とはよく言われることです(Ref. 1)。これに従ってでしょうか、通常、がん患者様が80歳以上の高齢ですと、がんの積極的な治療を医師は手控えてしまうことが多々あります。高齢であるがゆえに、他にも様々な身体機能が弱っているとされているからです。
しかし、自家がんワクチン接種によるがん免疫反応の誘導に関しては、80歳であっても実際上はほとんど問題ないようです。
以下の症例をご覧下さい。
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〔症例1679〕(いなにわ医院、福島県会津若松市)
80歳女性、胃がん。国立がん研究センターにて手術、胃がんサイズは52x34mmと大きく、粘膜深部で腺管が崩れリンパ管侵襲が見られていた(病理診断書より)ため、リンパ節転移のリスクがあり、本来ならば追加の外科的切除が必要とされていたところ、80歳という高齢を理由に追加手術見送りとなった。
そこで自家がんワクチン療法を受診、原料に使用できたパラフィン包埋ブロック(国立がん研究センターより患者様が受領)中の胃がん組織量が少なかったため、接種は1コース分(ワクチン3本)に満たず、2本のみにとどまったが、ワクチン接種部位に明かな発赤が観察された。
以後、半年毎のCT検査で、現在までに2年半以上無再発。
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1例のみでは不十分という議論はあろうかと思いますが、このようにヒトの免疫力は、従来の推定よりも十分高く保たれていますので、副作用のほとんどない自家がんワクチン療法に関しては、80歳以上の高齢者でも治療のチャンスを逃すことのないよう、前向きな適応をご検討いただければ幸いです。
Reference
1.磯部健一、伊藤佐知子、西尾尚美、日老医誌2011;48:205―210