☆★☆ (1) 抗がん剤は、がん免疫反応の促進剤にもなる:セルメディシンニュースNo.92の一部
従来より、「抗がん剤は、がん細胞と一緒にリンパ球も殺し、リンパ球が担っているがん免疫反応の邪魔をする、だから一緒にやってはいけない」と信じられてきましたが、必ずしもそうではない、というデータが最近蓄積しつつあります。
例えば、脳腫瘍治療に標準的に用いられる抗がん剤テモダールについては、ハインバーガー(米、テキサス大学)らは、抗がん剤治療とがん免疫療法は両立しないと“ドグマとして信じ込まれてきたけれども、実は同時併用しても、がん免疫療法の効果を減ずることはない”と主張、彼らの創成したペプチドワクチンCDX-110とテモダールを同時投与して治療に成功した膠芽腫の症例報告を出しています(1)。
また、多数例による第II相臨床試験で期待をはるかに越える長期生存を達成したと報告しています(2、論文は未発表ですが、詳細はおそらく今年5月末から始まる学会ASCO2009で明らかにされるでしょう)。
しかし、それだけではなく、更に一歩踏み込んで、「がん化学療法の結果、がん免疫反応のブレーキ役となっている免疫担当細胞(TregやMDSCという種類が知られています)を逆に抑制することによって、結果的にはかえってがん免疫反応を促進できる」という総説論文が発表されています(3)。
この総説では、低用量のシクロフォスファミド(商品名:エンドキサン)を細かく多数回にわけて投与することによってワクチン効果をはるかに増大できること、ジェムザールやビスホスホネート剤によってMDSCを抑制しワクチン効果を増強できること、等について述べ、抗がん剤のがん免疫反応への影響は、抗がん剤の直接的な殺がん細胞効果にとどまらない、としています。
免疫反応によるがん細胞排除作用は、免疫監視機構の重要な機能の一つとして古くから議論されてきていますが、抗がん剤の治療効果でさえも(全部ではなく一部だけであっても)免疫反応を介しているとなると、強力な抗がん剤の処方により体内の免疫担当細胞までほとんど殺してしまうような化学療法を継続するのは、考え込まざるを得ません。
今後は、“免疫能を生かすがん治療”の重要性がますますアップしていくのではないでしょうか。
REFERENCES
1. Heimberger AB, et al.: Immunological responses in a patient with glioblastoma multiforme treated with sequential courses of temozolomide and immunotherapy: Case study. Neuro-Oncology 10: 98?103, 2008.
2. Sampson JH, et al.: Tumor-specific immunotherapy targeting the EGFRvIII mutation in patients with malignant glioma. Semin Immunol. 20: 267-75, 2008.
3. Menard C, Martin F, Apetoh L, Bouyer F, Ghiringhelli F: Cancer chemotherapy: not only a direct cytotoxic effect, but also an adjuvant for antitumor immunity. Cancer Immunol Immunother 57:1579?1587, 2008.