“がん”は病の皇帝と言われる。遺伝子異常を起点とするが故にヒトが長生きすればするほど避けがたい疾病である。三大治療法(手術、放射線治療、化学療法)では治癒しがたいがんに対し、第四の治療法となるがん免疫療法が喧伝され始めてから久しいが、エビデンスが確立しているがん免疫療法はまだ僅かしかなく、希少ながん種に対するがん免疫療法は、エビデンス絶対主義者からすれば未だに怪しげな治療法扱いである。我々は、1996年、ホルマリン固定病理切片を脱パラフィン処理し、in vitroで患者本人の末梢血から細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導培養できることを示した(Nature Med, 1996)。これを応用し、in vivoでCTLを誘導、術後残存微小がん治療を可能にしたのが自家がんワクチン(AFTV)である。
肝臓がんでは、ランダム化対照臨床試験により、延命効果が有意差をもってあることを示し(Clin Cancer Res, 2004)、自家がんワクチン投与1年後でも血中に肝がん特異抗原に対するCTLが存在することを証明した(Clin Case Rep, 2015)。脳腫瘍では、グレードIVの膠芽腫で切除不十分でありながら放射線とAFTVの併用治療で術後15年も完全奏効を維持している症例があり、初発膠芽腫24例では3年生存率が38%に達した(J Neurosurg, 2014)。病理医が治癒不可能と診断した腎盂がんが完治(Clin Case Rep, 2017)、どんな治療を行っても治らないのが常識とされている乳がん骨転移症例でも、20例中3例(15%)で1年以上の完全奏効状態を維持、日常診療におけるレトロスペクティブスタディで全生存期間中央値60ヶ月を達成している(Int J Breast Cancer, 2018)。これは現時点における世界最高成績である。さらに、標準治療法がないとされている子宮頸部小細胞がんでも、「AFTV+放射線+免疫チェックポイント阻害剤」による「アクセル・オン/ブレーキ・オフ」戦略で肝転移巣の制御に成功している(Clin Case Rep, 2016)。いずれの場合も重篤な副作用はなく、安全性に関する問題はない。
本来ならば、正規の治験を経て、AFTVを承認薬に格上げすべきところであるが、莫大な費用と時間がかかる。そこで、我々としては、
・エビデンスレベル2b以上の臨床試験論文が出版されている。
・エビデンスレベル5の確実に有効なCR症例が複数でている。
・問題となる重篤な有害事象がほとんどない。
・自費診療価格も含め、実施医療機関の倫理委員会承認を得ている。
・リスクは患者の自己責任で負う(国の責任は問わない)との同意を書面で得ている。
という条件がそろったら“混合診療”を容認すれば、標準治療からあぶれたがん難民を一部でも救済できるのではないかと考えている。