ご心配には及びません。細胞性免疫反応におけるがん抗原の本体は、がん抗原タンパクの中のペプチドで、アミノ酸残基数で9-15個です。そのアミノ酸残基のなかでホルマリンと反応する官能基がないペプチドの場合は、長期間ホルマリン漬けにしても安定です。大部分は壊れずに残ります。このようなペプチドが抗原提示細胞の中でうまく処理され細胞表面に「異常目印」(TAA)として提示されれば、十分がん抗原として働きます。実際、私共の研究で、がん抗原タンパク(CEAを使いました)を取り込ませた抗原提示細胞をホルマリンで化学固定した場合でも、CEA産生がん細胞だけを特異的に殺す細胞傷害性キラーリンパ球(CTL)を誘導できるという実験結果が得られています。
ホルマリン漬けの組織の保存は冷蔵庫でかまいません。
ただし、がん抗原タンパクを抗体で染色する場合は、がん抗原タンパクがホルマリン固定されるときに立体構造が変化し、抗体が結合しなくなることがあります。抗原抗体反応とCTL誘導反応とは、同じ免疫反応の中でも全く異なるメカニズムによるものであることにご注意ください。