免疫チェックポイントのどこを阻害すべきか 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

トピックス

免疫チェックポイントのどこを阻害すべきか

最新の学会から 

例年、アメリカ癌学会(AACR)は4月に開催されます。今年は、4月14~18日にシカゴで開かれました(日本時間で昨夜までということですね)。

AACRは本来、癌にかかわる基礎研究の成果発表が主体の学会でしたが、近年は臨床成績の発表を非常に重視していて、大規模会場で開かれるPlenary sessionにずらりと臨床演題を並べ、live webcastで放映するという力の入れようです。

そのため、がん治療専門医が集まる米国癌治療学会(ASCO)と発表内容が重なり、両学会は競合関係になってきています。(日本で言えば、日本癌学会と日本癌治療学会の関係に当りますが、こちらの方は、まだまだのんびりした平和的協調関係と言えるでしょう。)

しかも、ASCOは例年6月にシカゴで開催されますので、AACRでは2ヶ月早く臨床成果を公表できます。ASCO参加者の機先を制することができるというわけです。

ASCOで発表されるがん治療法は、世界の標準治療になるパワーがありますので、わずか2ヶ月といえども、その機先を制することができるかできないかは、がん研究者にとっては命運をわける機会となっています。

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かくいう弊社も、今年のAACRで乳がん骨転移治療成績のポスター発表に共同研究者として参加しています。
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セルメディシンニュースNo.337

“従来型抗がん剤治療なし”で、乳がん骨転移に完全奏効したという症例

について、米国がん学会(AACR)2018で発表します。

発表日時:2018年4月18日 8:00-12:00
カテゴリー:臨床研究
抄録番号:5634
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発表内容は、→ こちらでも読めます
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さて、AACRの後塵を拝することになったASCOが、本日、自らのニュースメディア(The ASCO Post)を通じてこんなニュースを流しました。

◎ AACR 2018: Boosting T-Cell Memory May Result in Longer-Lasting Responses in Patients Treated With Checkpoint Blockade Immunotherapies
(メモリー(記憶)T細胞の増加作用が、免疫チェックポイント阻害剤による治療例で長期継続効果が得られることになるのかもしれない)

→ https://www.ascopost.com/News/58748?email=12e64566a208647c5ccf3a8b1c27dba7215f478b654ac8ccee169bcbd578c767

つまり、AACR2018で4月16日に発表されたばかりの研究成果を、ASCOは自らのネタに取り込んだのです。

実際の発表内容は、免疫チェックポイント阻害剤治療では、なぜ、がん縮小/消失で見た奏効率と、再発抑制効果持続期間に乖離があるのか、という疑問に一つの答えを提供するものでした。

悪性黒色腫(メラノーマ)患者に対して抗PD-1抗体(オプジーボ)を投与した場合、30%で奏効しますが、投与中止後2年以内に25%が再発します。再発抑制効果持続期間が短いのです。しかし、抗CTLA-4抗体(ヤーボイ)では、奏効率は11%にすぎないのに、22%の症例が10年以上長生きします。再発抑制効果持続期間が明らかに長いのです。

これは、抗CTLA-4抗体がメモリーT細胞を増やすのに、抗PD-1抗体は逆にメモリーT細胞を減らすためではないか、と考え、マウス実験では抗CTLA-4抗体が効果持続期間で優れていることを示しました(p<0.0005, Ref. 1)。

ヒトでは、抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体を併用した方が、効果が長く持続するということが既に知られていましたが、その根拠がメモリーT細胞にあることを実験で示したわけです。

免疫チェックポイントは2段階に大きく分れています。
まずは、
(1)がん抗原が樹状細胞に取り込まれ、そこに未熟なT細胞が接触してがん抗原情報をもらい、キラーT細胞に分化増殖します。この段階では免疫反応が暴走しないように、CTLA-4分子がブレーキ役をはたします。抗CTLA-4抗体はこのブレーキをはずす作用があります。

次に
(2)キラーT細胞ががん細胞に遭遇したとき、相手のがん抗原情報を認識して相手を殺します。この段階ではやはり免疫反応が暴走しないように、T細胞上にあるPD-1分子がブレーキ役をはたします。抗PD-1抗体はこのブレーキをはずす作用があります。

(2)の段階で働くキラーT細胞は、増殖しつつも、疲弊して死ぬことが多く、長期間働き続けるわけではありません。しかし(1)の段階では、キラーT細胞が増殖してくる一方で、あまり増えないが非常に長命のメモリーT細胞に分化していくものが出現します。そのときに、抗CTLA-4抗体があればブレーキが効きませんから、メモリーT細胞が多数できるというわけです。

メモリーT細胞は、少しのがん抗原情報に接すれば、たちまちキラーT細胞となって増え、相手のがん細胞を殺しますので、がん再発を防止できるため、再発抑制効果が長く続くことになります。

しかし、免疫チェックポイント阻害剤には、自己免疫疾患と同じような症状を起こす強烈な副作用があるという大きな問題点があり、死亡例も出ています(間質性肺疾患,大腸炎,甲状腺機能低下症,肝障害,発疹,白斑,下垂体炎,I型糖尿病,腎機能障害,重症筋無力症,末梢神経障害,筋炎,ぶどう膜炎など。全身のあらゆる臓器に出現する可能性があります)。

この副作用は抗PD-1抗体オプジーボで知られてきていますが、抗CTLA-4抗体ヤーボイの方が実際にはもっと強く出てきます。まして両方を併用したら、副作用が非常に強化されてしまうことは容易に推定できるでしょう。

両方を併用した場合、非常に危険な副作用(有害事象でいうグレード3以上の重篤な副作用)が54%以上(2人に1人)に出現します(Ref. 2)。

そこで弊社では、
(1)の段階で、ブレーキをはずすのではなく、(ブレーキは効いていても、それを上回って前進できるように)アクセルを踏む作用がある「自家がんワクチン」と、低用量にした抗PD-1抗体(オプジーボまたは同じ作用があるキイトルーダ)を併用する
「アクセル・オン/ブレーキ・オフ戦略」 こちらです
を推進しています。ブレーキを全面的にはずさないようにしている点が大きな特徴です。

そのページに記載されていますように、
◎「がんワクチンと免疫チェックポイント阻害剤を併用すれば効果が一層上がる」
という基本的な概念は既に証明されています。

また、弊社では、症例報告レベルですが、すでに2015.06.29に、臨床で、
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自家がんワクチンと免疫チェックポイント阻害剤を併用した最初の症例
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について、良好な治療効果を弊社ホームページに掲載しています。しかも問題となる副作用(グレード3以上の有害事象)は全く無しです。

→ https://cell-medicine.com/cases/shikyugan/
のページの〔症例2329〕 (銀座並木通りクリニック)をご覧下さい。学術論文は、以下のRef. 3です。

ただし、免疫チェックポイント阻害剤はオプジーボの場合でも一般的に推奨されている用量(1回3mg/kg、体重50kgの方なら150mg)では、頻度は低いとはいえ、強い副作用が現れる可能性があります。

そこで、今後、弊社では、自家がんワクチンと併用する免疫チェックポイント阻害剤を出来る限り低用量(Low Dose)に抑えていく方法により、副作用の発生を避けつつ併用効果が上がり、かつ、価格も安くなる方法を探索していく予定です。

Reference

1.S. Mok, C. R. Duffy, J. P. Allison; MD Anderson Cancer Ctr.,
– Effects of anti-CTLA-4 and anti-PD-1 on memory T-cell differentiation and resistance to tumor relapse.
AACR2018, abstract #2984, 2018.

2.門野岳史、
– 免疫チェックポイント阻害剤による免疫関連副作用の実際.
Jpn. J. Clin. Immunol., 2017;40:83-89.

3.Tatsu Miyoshi, Tatsuji Kataoka, Atsuko Asahi, Takashi Maruyama, Rika Okada, Yoji Uemae, & Tadao Ohno.
– A transient increase and subsequent sharp decrease of chemo-refractory liver-metastasized uterine cervical small cell carcinoma to autologous formalin-fixed tumor vaccine plus anti-PD-1 antibody.
Clinical Case Reports 2016;4:687-691.

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