「マケイン米上院議員、脳腫瘍の診断」のニュースを振り返ると 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

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「マケイン米上院議員、脳腫瘍の診断」のニュースを振り返ると

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7月20日、米国上院議員のジョン・マケイン氏が脳腫瘍と診断されたと報じられました。
→ https://www.bbc.com/japanese/40664682

マケイン上院議員は共和党の大物政治家で、2008年には、民主党のバラク・オバマ氏と大統領の座を争ったことで有名です。現在80歳、海軍出身の英雄で、当選6期ということですから米国議会の重鎮中の重鎮といってよいでしょう。

この方の診断名は「膠芽腫」と発表されています。それが正しければ、脳腫瘍のうちのグレードIVで、がんの中でも「最悪中の最悪」とされる多形膠芽腫(glioblastoma multiforme, GBM)です。

7月14日の手術から『驚くほど良好に』回復中とのことですが、一般的にGBMと診断された場合、どのような予後となるのか、ここで世界の治療成績を振り返って見ましょう。

GBMの標準治療とされている方法は、
  → 開頭手術で最大限摘除
  → 最大限の放射線治療+抗がん剤テモダールの6週間同時併用療法
  → 4週間ごとに5日間の抗がん剤テモダール投与による維持療法
で、これは「Stuppレジメン」と呼ばれる2005年に論文発表された治療法
です(論文:N Engl J Med 2005;352:987-96)。

この標準治療によれば、
・術後再発までの期間の中央値
(半数の方が再発してしまうまでの期間、mPFSといいます)=6.9ヶ月、
・術後から死亡するまでの全生存期間(OS)の中央値(mOSといいます)
=14.6ヶ月、
・2年生存率は30%
・5年生存率は10%程度に留まります。
→ https://www.abta.org/brain-tumor-information/types-of-tumors/glioblastoma.html?referrer=https://www.google.co.jp/

GBMの予後が非常に悪い理由の一つとして、浸潤性(GBM細胞が脳内に染み込むように広がること)が高く、外科医が「きれいに取れましたよ」と言ったとしても、実は手術による完全摘出が出来ていないことが挙げられます。

では、2005年以降、現在までに開発が試みられた新規治療法には、どんな方法があるでしょうか。

筆者が2017年6月末時点でまとめた主な方法には、以下があります。ただし、調査対象にしたのは、初めて膠芽腫が見つかって治療が始まった初発膠芽腫の場合です。

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・Prinsらによる、
「樹状細胞+脳腫瘍ライセート」ワクチン+imiquimodまたはpoly-ICLC
(mOS=31.4ヶ月)(論文:Clin Cancer Res, 2011;17:1603-1615)

→ DCVax-Brainとよばれるこの試験は現在第3相に進行中。それにしても5年も過ぎてもなかなか発表されない、という特徴があります。
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・Phuphanichらによる、
ICT-107試験:「樹状細胞+6種類の合成ペプチド」ワクチン
(論文:Cancer Imm Imm, 2013;62:125-35)

→ 第1相試験では、mPFS=16.9ヶ月、mOS=38.4ヶ月でしたので、大成功と報じられましたが、第2相試験ではmOSで対照群と有意差がなく、試験そのものが失敗に終わっています。それでも現在、一部のGBM症例については試験が継続されています。
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・Chinotらによる、
アバスチンによるAVAglio試験(mPFS=10.6ヶ月、mOS=16.8ヶ月)
(論文:N Engl J Med 2014;370:709-22)
・Gilbertらによる、
アバスチンによるRTOG0825試験(mPFS=10.7ヶ月、mOS=15.7ヶ月)
(論文:N Engl J Med 2014;370:699-708)

→ 2つの試験の内容はほぼ同じです。確かにmPFSは延長しています。しかし、どちらの試験でも、OSは対照群と有意差がありませんでした。アバスチンは日本では脳腫瘍の治療用としても国の承認が出ていますが、医療の現場では、mOSが全く延びていないことから、標準治療に勝るとまで認められてはいません。
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・石川らによる、
UMIN1426試験:自家脳腫瘍ワクチン
(mPFS=8.2ヶ月、mOS=22.2ヶ月)(論文:J Neurosurg 2014;121:543-53)

→ これは第2相前期試験で、比較する対照群を置いていないため、自家脳腫瘍ワクチンの効果の有無についてはまだ不明ですが、3年生存率が38%もあるため、第3相試験が待たれています。
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・Schusterらによる、
ACT III試験:CDX-11(EGFRvIII)という合成ペプチドのワクチン
(mPFS=5.5ヶ月、mOS=21.8ヶ月)(論文:Neuro-Oncol 2015;17:854-61)

→ これは第2相試験。3年生存率が26%はあり期待されていましたが、残念ながら第3相試験(ACT IV)で対照群との間でOSに有意差が見られず、失敗に終わっています(学会ASCO2017での発表)。
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・橋本らによる、
WT-1試験:参加症例数が7例しかないため、mPFS=5.2~49.1ヶ月と幅広に報告されていて確定していません(論文:Cancer Imm Imm, 2015;64:707-16)
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このように、最初の手術でほとんど全部取り除いた初発膠芽腫でも、予後は非常に厳しく、未だに標準治療(Stuppレジメン)を越えたとの、
第3相試験で「確定した成績」
は発表されていません。

他のがん種で大きな話題となり、膠芽腫でも期待されてきた免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ、ヤーボイ等)について、再発膠芽腫では既に臨床試験がなされていますが、今のところ、いずれの臨床試験も失敗しています(学会ASCO2017にて情報入手)。

脳腫瘍のうち、GBMの治療成績を向上させるのは、これほどに難しく、2005年から「5年以内に9割は死亡する」という状態はほとんど変わっておりません。

日本では、膠芽腫の発生率は年間1000例前後とされており、がんの中でも珍しい方ですが、悪性度が非常に高いが故に、この治療に成功できる方法は他のがん種でも効果が高いはずだと推定され、がん治療法開発競争では世界中で激戦区になっています。

それだけ重要な開発課題ですので、弊社では、うまずたゆまずコツコツと、GBMの治療成績向上を目指して、新技術の開発努力を続けて参ります。

注:弊社は病院やクリニックではなくバイオ企業であるため、症例報告や論文内容のWeb掲載は許容されています。

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