2017.09.04付の日経バイオテクOnLineのニュースで、スイスの
「Novartis社のCART、奏功した患者に対して治療費要求へ」
薬価は治療1回あたり47万5000ドル(約5200万円)
と報じられました。
CARTというのは、患者様自身のリンパ球の遺伝子を操作して、白血病細胞だけに結合する抗体分子の先端部分を、リンパ球の表面に発現する性質がある受容体分子の先端に発現させるようにして、普通のリンパ球を白血病細胞だけを殺すようにしたキラーリンパ球に変身させた遺伝子組み換え細胞です。
CART細胞を、体外で培養して大量に増やし、体内に戻して一挙に白血病を治してしまおうという治療法ですが、あまりにも急激に体内の白血病細胞を一挙に殺してしまうため、命にかかわる劇症型の副作用を発生することがあります。
しかしこの副作用は、日本で開発され世界に普及している抗体医薬「アクテムラ」を投与することによって防ぐことができると判明してから、CART療法が実用化されたものです。
世界で初めて米国で「遺伝子治療薬」として8月30日に承認されたばかりですが、治療費がなんと、たった1回の治療で「家1軒分」となっています。
これだけの超高額治療費となりますと、さすがに治療に失敗した場合、患者様の打撃は計り知れません。そこで、成功報酬型(患者様の具合が明瞭に良くなったと認められたら治療費を支払う)の治療費請求となったわけですが、これだけ高額となりますと、医薬品を提供する製薬企業側も、受診する患者様側も非常な覚悟が必要となります。
このような治療費となった背景には、米国FDAによる厳格な規制をクリアーできる治験を経なければならないという事情があります。
免疫チェックポイント阻害剤である抗体医薬の開発には、基礎研究から治験を経て承認獲得まで、すでに5000億円もかかる時代に入っています。今回のCART療法の開発には、当然ながら治験自体も含めて、想像もできない程の莫大な費用がかかっているはずです(一時は、Novartis社はCART療法の開発から撤退とさえ報じられていました)。
はたして、本邦では、5000億円をはるかに超える開発費を投資できる製薬企業は何社現れるでしょうか。
また、それよりも「米国FDAによる厳格な規制をクリアーできる治験」を絶対視して良いのかどうか、莫大な開発費がかからない規制緩和の道はないのかどうか、実は悩ましい問題ではないでしょうか。