自家がんワクチンを投与するとき、患者さんの体調があまりにも悪い場合、躊躇せざるを得ないことがあります。
例えば、がんが進行していてどんどん痩せていくようなカケキシア(悪液質)状態に至ると、基礎的な免疫能力が激減してしまい、自家がんワクチンによる免疫刺激に、体の側が反応できないようになってしまいます。
こうなる前に、つまり基礎的な免疫能力が十分あるうちに自家がんワクチンを投与願いたいのですが、では何を指標にすれば、基礎的な免疫能力があるか否か、判定にあたる境界線はどこか、わかるでしょうか?
実は、がん免疫反応では、この境界線があいまいではっきりとはわかっておりません。
弊社では、久留米大学がペプチドワクチンの開発過程で設定していた「血中リンパ球数が1000ヶ/mm^3以上」を採用しています。
ただし、これは絶対的境界線ではなく、暫定的に採用しているだけで、例えば、抗がん剤治療で一時的に白血球中のリンパ球数が5~600程度まで減少しても、すぐに回復傾向に入り、どんどん増えてくることが明らかなら、自家がんワクチン注射も可能と考えています。
これは、新規の若いリンパ球が骨髄からどんどん供給されていること、免疫能力も回復途上にあることを示しているからです。
しかし、骨髄が抗がん剤治療ですっかり破壊されてしまうと、血中リンパ球数がどんどん増えるわけには行きません。リンパ球欠乏症に陥り、患者さんにとっては、周囲の環境中にウヨウヨ居る平凡なばい菌によって、重篤な感染症になりやすいという危険性があります。
中国から最近発表された新型コロナウイルス感染症の論文では(Ref. 1)、感染した患者さんに肺炎がおきて重篤な状態になるのか、軽症で済んでしまうのかについて解析されています。
その論文中の表2では、解析された総患者数が1099例もありますが、血中リンパ球数の中央値が1000(中央値の統計学上のバラツキの範囲は700-1300)でした。
患者のなかで、血中リンパ球数の中央値が、
軽症で済んだ926例では:1000 (バラツキの範囲は、800-1400)
重症化した173例では : 800 (バラツキの範囲は、600-1000)
でした。
中央値のバラツキをみると、800~1000では軽症で済みそうか重症になりそうかは、境界線上にあってよくわかりません。
しかし、
. 1000以上あれば軽症で済むだろう、
. 600以下では重症化する、
という推定が可能と思われます。
これらの値は、丁度、
. 1000以上あれば、
自家がんワクチンが有効となる
可能性が高い、
という弊社の従来の経験と合います。
つまり、血中リンパ球数で表される患者さんの基礎的な免疫能力が、新型コロナウイルス感染の場合でも、自家がんワクチンによるがん治療の場合でも、境界線になっているのです。
やはり、血中リンパ球数を1000以上に保てるように、普段の生活で、十分な睡眠と栄養をとるように心がけていくことが、天寿を全うするためには非常に大切なことがわかります。
Reference
1. Guan W, et al.,Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China.
. N Engl J Med. 2020 Feb 28. doi: 10.1056/NEJMoa2002032. [Epub ahead of print]
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