乳房外パジェット病は、非常に珍しいがん種です。皮膚がんの一種で、汗を分泌するアポクリン汗腺由来と考えられています。
そのため(乳がんに準じる)乳房上皮に生じるパジェット病とは異なります。
本邦では乳房外パジェット病は年間200例以上の報告があるとされています(Ref. 1)が、実のところ、この程度しかない希少がんです。
治療法としては、原発巣の切除と、原発巣に関連するリンパ節を全部取ってしまう郭清術が施行されます。
しかし、その他のがん治療法では(放射線治療も化学療法もあまり効かないため)、確立された標準治療と言われるものはありません。
最近、たまたま乳房外パジェット病だと判明している患者様から弊社に問合せがありましたので、弊社のデータベースを検索してみましたところ、3例の自家がんワクチン療法経験例が見つかりました。
創業以来、今日まで、弊社の自家がんワクチン療法受診症例数は3800例を越えていますが、そのうちのわずか3例です。
しかも、そのうちの1例の方は、自家がんワクチン接種前に症状が悪化、受診そのものを断念されています。
別の1例の方は、鼠径リンパ節や骨盤腔内に23個も転移していた方です。全摘した上に、放射線50.4Gy照射し、追加して自家がんワクチン療法を受けられました。しかし、残念ながら無効に終わりました。
これほどに、乳房外パジェット病の治療は難しいと考えられているのですが、実はもう1例の方では、よくぞここまで、との感慨が湧くほどの経過をたどっておられましたので、以下にご紹介します。
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〔症例3249〕(二宮医院)
外陰部原発の乳房外パジェット病。多発リンパ節転移(骨盤~腹部大動脈リンパ節にかけてリンパ節57ヶ中55ヶに)がある上に、腹膜播種ありで抗がん剤治療中(2019年8月から毎月ドセタキセル投与)。しかし皮膚転移が出現し摘出を繰り返している。
ドセタキセル治療中に、血球回復期にあわせて3週間隔で、2019年9月より自家がんワクチン1コース目接種(材料:転移リンパ節)。
2019年10月よりパクリタキセルを「週1回、3週間投与、1週間休薬」のサイクルを繰り返した。
2019年12月現在“腹膜播種、皮下結節が全て消失”。2020年2月まで標的病変消失維持。
2020年3月皮膚転移が新規出現。
4月よりドセタキセル治療を再開。
9月~10月 脳転移が出現し全脳照射
9月 自家ワクチン2コース目接種(材料:皮下転移組織)
10月 腹膜播種、傍大動脈動脈・腸間膜リンパ節転移、後腹膜転移出現
10月 low dose FP(5-FUとシスプラチンの併用)療法開始
12月 症状悪化あり、化学療法は中止
2021年3月 死亡
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ドセタキセルとパクリタキセルは、薬物動態に多少の違いがあるとはいえ、作用機序が同じで、細胞の微小管に結合し、微小管の脱重合(細胞が2つに分かれる段階で起こる反応)を阻害、結果的に細胞分裂を阻害する薬剤です。
そのためドセタキセルだけでは無効な状態からパクリタキセルに変更しても、それだけではがん塊の腹膜播種が消失するほどに有効になるとは極めて考えにくいのです。
ここに自家がんワクチン(1コース目)が作用したために、
“腹膜播種、皮下結節が全て消失”という、劇的効果をもたらしたと考えられます。
もともと腹膜播種まである方ですから、がん種が何であれ、これを治すのは至難中の至難の業です。自家がんワクチン療法開始時には既に最末期に入っていたとしても不思議ではありません。
その方が、3ヶ月間という短期間ながら劇的効果があった時期を経て、自家がんワクチン接種開始より約1年半も生き延びられたということは、患者様にとっては大きなメリットとなったと判断できます。
というわけで、外科切除以外は標準的な治療法がない希少な難治がん・乳房外パジェット病にも、自家がんワクチン療法を施行する価値は十分あるのではないでしょうか。
Reference
1.乳房外パジェット病診療ガイドライン2021, 皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版, 日本皮膚科学会, 日皮会誌:131(2),225-244,2021.
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/extramammary%20Paget%E2%80%99s%20disease2021.pdf
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