進行がんの増悪を抑制するが延命効果はないという薬、はたして意味があるのか 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

トピックス

進行がんの増悪を抑制するが延命効果はないという薬、はたして意味があるのか

最新の学会から 

2月8日着信のASCO(米国臨床腫瘍学会)からのニュース(元はMedPage Today, 2/7付け)で、
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進行がんで、第2ラインの化学療法に分子標的薬を追加したところ、無増悪生存期間(PFS)は改善されたが、
全生存期間(OS)は改善されなかった(大規模な無作為化試験の結果で)。
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と報じられました(Ref. 1)。

5-FUまたはプラチナ製剤を含む第1ラインの化学療法後に進行した胃がんで(この段階で既に第1ラインとして使用された抗がん剤治療は失敗していることを意味します)、汎用される抗がん剤パクリタキセルに、がんで発達する微小血管の新生を阻害する分子標的薬(フルキンチニブ)を上乗せした治療を行ったという、大規模な臨床試験の結果です。

これは、今回のセルメディシンニュースのタイトルのとおり、がんの悪化は抑えるが、患者は長生きできない、という薬であることを示しています。

米国でも本邦でも、がんの場合、新薬承認の審査では、
. 「その薬にはがん患者の延命効果があるのか?」
が、
最も重要視される指標となっています。

(もはや、「奏効率」を指標にして承認審査する時代はとうに過ぎ去っています。)

もし、今回の大規模試験が、新規承認申請のための第III相治験であったなら、この薬(フルキンチニブ)の承認は却下されたでしょう。

ただし、この薬、実は進行大腸がんの増悪を抑制し、延命効果もあるということで、本邦でも転移性大腸がんに対して2021年に承認されています。

そこで、今回は「進行胃がんにも」と適応拡大の狙いで第III相試験が実施されたようですが、はたして米国の審査機関(FDA)が、胃がんにも適応拡大の承認を出すか否か、注目されます。

~~~~~~~~(後日談 ↓)~~~~~~~~
上記のASCOからのニュースが出た4日後には、「海外がん情報リファレンス、2月12日日版」に、

https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/syoukakigann/syokudougann/post-27024.html

(冒頭の大規模試験では)、
「追跡期間中央値31.7カ月後の全生存期間中央値は、フルキンチニブ+パクリタキセル群で9.63カ月、プラセボ+パクリタキセル群で8.41カ月であったが、統計学的に有意ではなかった。その後の抗腫瘍療法(第3ライン)について(患者群に偏りがあり、偏りを)調整するためにpost-hoc解析が行われ、以下の結果が得られた。
. フルキンチニブ+パクリタキセル群で全生存期間は、統計学的に有意に改善した。」

と出ていますので、FDAは承認するのではないかと思われます。
~~~~~~~~(後日談 ↑)~~~~~~~~

この薬よりも以前に、同じように作用する新生血管阻害薬としてアバスチン(ベバシズマブ)が大腸がんの治療薬として承認されています(2006年)。

アバスチンは、本邦では、脳腫瘍のうちの悪性神経膠腫(最悪性の膠芽腫も含まれます)にも、適応拡大が承認されています(2013年)。

しかし、このアバスチンには、膠芽腫の増悪を抑制する効果は証明されていますが、延命効果は全くありません(Ref. 2)。

そのため、本邦の脳神経外科の先生方の中には、(膠芽腫で起こる脳浮腫の制御には有効だと認めつつも)、延命効果がないため、
.  「あれは意味がない」
として、膠芽腫の治療には使用しない先生方も既に出ています。

それでも、
.  「あれは承認薬だから、保険診療で使える、
.   選択肢の一つとして患者のために使う」
という先生もおられます。

どちらが正しいのか、これまでは延々と議論のあるところですが、おそらくはこの正否を離れて、実際にどのくらい患者さんのためにどのように貢献したのか、という、新しい数値化できる科学的指標が確立されれば、初めて決着が付くのではないでしょうか。

新しい指標としては、“QALY”スコアの評価も考慮されていくことと思います。

Reference

1. Mixed Results in Advanced Gastric/GEJ Cancer
With Add-On Fruquintinib ? Significant improvement
in PFS, but not OS, versus chemo alone in the
second-line setting

https://www.medpagetoday.com/hematologyoncology/othercancers/108624

2. Chinot OL, et al.
Bevacizumab plus Radiotherapy?Temozolomide
for Newly Diagnosed Glioblastoma
N Engl J Med 2014;370:709-22.
DOI: 10.1056/NEJMoa1308345

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