がん治療で放射線治療の威力は万人の知るところですが、簡便さや副作用という面からみるとまだまだ改善の余地があります。
本日着信のASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)からのニュースでは、
Five-Fraction SBRT Is Noninferior To Conventionally Or Moderately Hypofractionated RT In Patients With Localized Prostate Cancer.(5分割のSBRT*は、局所前立腺がん患者では、従来型放射線治療または中程度寡分割放射線治療には非劣性である。)
と出ています。
*SBRT:stereotactic body radiotherapy、定位放射線治療
このニュースの元となった論文は、New England Journal of Medicine誌で(Ref. 1)、英国からの発表です。
NEJM誌は、臨床医学分野では世界トップレベルの学術誌ですから、これに掲載された論文を読んだ医師は、翌日から、自分の患者の治療法を変えると言われているほどです。(米国の医学生は、NEJM誌の論文を「知らなかった」では済まされないようで、非常によく勉強しています。)
身体の外からX線を当てる前立腺がんの放射線治療では、通常、一回の放射線照射で2Gy照射し、これを毎日1回、5日間繰り返して行きます(土日は休み)。累積照射線量が72Gyまで照射しますので、足掛け8週間もかかります。
これが、いままでのやり方、通常の分割照射法です。
これでは面倒とばかり、1回あたりの照射線量を1.5Gy~4Gyに増やし、照射回数を減らした方法が
中程度寡分割放射線治療
です。4Gyまでなら、強い副作用は滅多にでませんので、安全な範囲です。
それでも、実は、2016年以前から、
「こんなに放射線を浴びせる必要があるのか?」
という疑問が提示されていて、やはり、しっかりと検証できるランダム化試験(前向きの第III相臨床試験)をしてみて、その結果を待つべきだ、とされていました(Ref. 2)。
その結果がついに出た、というのが今回のASCOからのニュースです。
それによれば、低リスクの前立腺がんなら、累積照射線量が36.25Gy/5回の分割照射(1回あたり7.25Gy)で良い、つまり、1~2週間で放射線治療は終わる、ということでした。
この試験には、計874人もの患者さんが参加していますので、たいへんな大仕事だったと思います。
この線量に近い30Gyは、骨に転移したがんに対して、痛みをとる「除痛照射」として汎用されています。(痛みには非常に良く効くことがわかっています)が、がん治療そのもの用としては活用されていません。
ここに、放射線治療とは相性のよい、
「自家がんワクチン療法」
を併用すれば、“イムラジ”(イムノテラピィ+ラジオテラピィの略語)となって、非常によく効くと考えられます。
実際の症例は、弊社ホームページから、
トピックス:( https://cell-medicine.com/topics/1866)
大腸がんの〔症例0994〕: https://cell-medicine.com/cases/38
を合わせてご覧ください。
特に〔症例0994〕では、傍大動脈リンパ節11ヶ所に転移ありの状態だった方でしたので、30Gyよりは少し多い50Gyの放射線照射と併用して自家がんワクチンを接種していますが、その結果、放射線照射をしていない肺転移巣までも消失しています(アブスコパル効果といいます)。
つまり、今回のASCOからのニュースにて、“イムラジ”による「自家がんワクチン療法」の広大な未来が見えてきたと思われます。
ぜひ、ご活用をご検討ください。
Reference
1.van As N, et al.
Phase 3 Trial of Stereotactic Body Radiotherapy in Localized Prostate Cancer.
N Engl J Med 2024;391:1413-1425
DOI: 10.1056/NEJMoa2403365
2.日本泌尿器科学会
2016年版前立腺癌診療ガイドライン、pp. 136-137.