前々回のトピックスNo. 649「達成!世界新記録:“自家がんワクチン”、転移した乳がんで世界最長の延命効果を示す – プレスリリースを発信しました」 では、遠隔転移が発見されたステージIVの乳がんでは、いままでの治療法では、約6割の方の命が、“5年はもたない”ことを指摘しました。
それに対して、自家がんワクチン(AFTV)と放射線治療(RT)を組み合わせ、かつ抗がん剤治療(Chemo)をAFTV療法の前後6ヶ月間していない、という患者群(A群、最適AFTVセットサブグループ群と命名)では、
(遠隔転移が発見された後の全生存期間の「中央値」が)
なんと! 12.85年 ($)
もありました、この値($)が、
世界最長の延命効果( = 世界新記録! )
であることを示しています (Ref. 1)、と報告しました。
前回のトピックスNo. 650では、この値($)を導き出した統計解析法、
「ターゲットトライアルエミュレーション法」
とはどんな解析方法かを解説しましたが、その文末に書きましたように、
おっと、まだ続きがあります。
・この値($)を何と比較したのか、
・AFTVとRTを併用しても、
(この組み合わせは今回のニュースのトップにある“イムラジ”になっていますよ!)
重大な副作用は見られない、というが、どんなデータがあるのか、
という点について、これから申し上げます。どうぞお付き合いください。
【1】この値($)を何と比較したのか
2024年10月1日に、Nature Medicineという一流の国際学術誌に、転移性(ステージIV)乳がんのうち、予後が短く悪性だとされるタイプの乳がん患者について、
抗体薬物複合体(ADC)のうち、
・サシツズマブゴビテカンSacituzumab govitecan (略称 SG と臨床の先生方は称しています))を投与すると、投与後の生存期間(OS)の中央値mOSが、有意に延びるという臨床試験論文 (Ref. 2)が掲載されました。
このときの、
コントロール群のmOSは ・・・・・・ 15.3ヶ月(1.3年)
SG投与群のmOSは ・・・・・・ 21.0ヶ月(1.8年)
でした(p=0.0061)。
これとは全く独立に、因島医師会病院と弊社では、自家がんワクチン療法を受けた乳がんの方々の予後は臨床現場の実感で、かなり長くなっているな~と把握、生データを整理しつつ独自に論文を書き始めておりました。
しかし、このNature Medicineの論文に接したとき、mOSが“やけに短いな”、との違和感を覚えました。
そこで、乳がんに対する他の抗体薬物複合体(ADC)の延命効果を調べてみると、2020年3月に日本で承認された
・トラスツズマブデルクステカンTrastuzumab deruxtecan (略称 T-DXd)では、
* 2022年発表の論文では、 mOSは23.9ヶ月(2.0年)(Ref. 3)
* 2024年発表の試験結果で、mOSが39.2ヶ月(3.3年)(Ref. 4)
* 2024年発表の別論文では、mOSが52.6ヶ月(4.4年)(Ref. 5)
と発表されていました。
T-DXdは、現時点では、進行してステージIVとなった乳がんには、最もよく効く医薬品とされています。
それぞれの試験の条件が異なるため、一つの臨床試験の中で背景因子が同じような群の間で比較するという直接的な比較は難しいところがあるとはいえ、mOSは、長くても、4.4年と判ります。
これらの発表の後もトラスツズマブデルクステカン(T-DXd)を用いた臨床試験は続けられており、有望な結果が出ているとされていますが、2025年7月現在で、4.4年を越えたというmOS値の発表は未だありません。
また、本邦の国立がん研究センター中央病院から発表されている「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」で、乳がんの実測生存率の図(→https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2014-2015&elapsed=5&type=c09#h-title)をみると、ステージIVの実測生存率の中央値(生存率曲線で縦軸の50%ラインとクロスするポイントの横軸の年数)は、3.6年と読み取れます。
このデータはやや古いものの、徹底的な治療を行う国立がん研究センター中央病院でさえ、ステージIVの乳がん症例の半数を延命させられる期間は、4年を越えないこと、そのページの表にあるように、
・実測生存率でみた5年生存率は、38.6%にすぎないことが判ります。(逆にみれば、約6割の方の命が“5年はもたない”ことを示しています。)
以上の点からすると、上記の12.85年($)という値は圧倒的に長いことがわかります。
マラソン競技に例えれば、試合の時期も場所も選手も違っていても(競争の条件がバラバラだったとしても)、“世界新記録”が生まれれば、世界中に報道されます。
つまり、競争の条件を棚上げにしても、タイムという絶対値で比較すると、非常にわかりやすくなります。
そういうわけで、2025年時点では、弊社が知る限り、この値($)は、
世界最長の延命効果( = 世界新記録! )
と言えるのです。
【2】自家がんワクチン(AFTV)と放射線治療(RT)を併用しても、重大な副作用は見られない、というが、どんなデータがあるのか
弊社も参加した今回の、「ターゲットトライアルエミュレーション法」による35年間に渡る実臨床データの解析研究(Ref. 1)では、上記の「最適AFTVセット」サブグループ群に限らず、AFTVを投与された患者全体(n=59)の中での副作用は、(今回は有害事象の程度を、世界中で使用されているCTCAE v5.0の Grade の尺度で計測しました)
Grade 1 ・・・・・・ 23件(39%)
Grade 2 ・・・・・・ 9件(15%)
で、重大な副作用に該当する、Grade 3, 4, 5はいずれもゼロ件でした(Ref. 1)。
Grade 1と2は、放置しておいても自然に治るという軽い副作用の範囲ですので、治療上では全く問題になりません。
一方で、参考のため、抗体薬物複合体(ADC)の一つ、トラスツズマブデルクステカン(T-DXd)の副作用を調べたところ、重大な副作用が多発していました。
最も大きな問題となる「間質性肺疾患」(息切れ、息苦しさ、咳、発熱がある)は、10.2%の症例で出現、最悪の場合、この副作用で死亡者が出ています(Grade 5です)。
また、「骨髄抑制」も強く(白血球数が激減し、感染症にかかりやすくなります)、56.6%の症例で出現、点滴投与時に起こりやすい危険な「インフージョンリアクション」(呼吸困難、意識の低下・消失等を起こします)も、1.5%出ています。いずれもGrade 3か4に相当します(Ref. 4)。
これらの点を勘案すると、乳がんの手術後、遠隔転移が検出された乳がんの患者さんには、
先ずは、
・自家がんワクチン(AFTV)療法をお勧めできるのではないかと思われます。
特に、上記のように、
・自家がんワクチン(AFTV)と放射線治療(RT)を併用できる可能性が高い方には、
できれば、AFTV投与の前後には(前後6ヶ月間にこだわらず、1~5ヶ月間であれ)なるべく長い間、化学療法(Chemo)を避けていただければ、(体内の残存抗がん剤を自然代謝でゆっくりと除去でき、若い活力のあるリンパ球が増えてきますので)、“最適AFTVセット”療法か、それに近い療法を受診できる状況になります。
受診されれば、延命効果の世界新記録を発表した今回の論文(Ref. 1)にあるように、良好な予後を期待できるのではないでしょうか。
患者様には、どうかご安心の上で、副作用が問題にならない自家がんワクチン(AFTV)療法を、そしてできれば、
“最適AFTVセット”療法
の受診を前向きにご検討願います。
長生きできれば、その分、人生で得をします。
References
1.Kuranishi F, Miyazaki T, Tagashira T, et al.
Thirty-five-year follow-up real-world data revealed the efficacy of autologous formalin- fixed tumor vaccine on metastatic breast cancer – A target trial emulation.
Clinical Breast Cancer, 2025; in press.
Available online 27 June 2025 Journal Pre-proof
https://doi.org/10.1016/j.clbc.2025.06.008
2.Xu B, Wang S, Yan M, et al.
Sacituzumab govitecan in HR+HER2- metastatic breast cancer: the randomized phase 3 EVER-132-002 trial.
Nature Medicine 2024;30(12):3709-3716.
doi: 10.1038/s41591-024-03269-z. Epub 2024 Oct 1.
3.Modi S, Jacot W, Yamashita T, et al.
Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Low Advanced Breast Cancer.
N Engl J Med 2022;387:9-20.
DOI: 10.1056/NEJMoa2203690
4.エンハーツ添付文書、2025年3月改訂、v11、国際共同第Ⅲ相試験(DESTINY-Breast02)
5.Cortes J, Hurvitz SA, Im S-A, et al.
Trastuzumab deruxtecan versus trastuzumab emtansine in HER2-positive metastatic breast cancer: long-term survival analysis of the DESTINY-Breast03 trial.
Nat Med 2024;30:2208-2215.
DOI: 10.1038/s41591-024-03021-7
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