専門家の間では周知ですが、体内の異常細胞を常時監視し異常細胞(がん細胞もその一種です)を殺すキラーT細胞は、過剰に活性化しすぎて暴走しないように、自分の細胞表面にブレーキ役となるいくつかの分子を発現しています。
これらを総称して、「免疫チェックポイント」と言っていますが、その代表的なものに、
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(1)キラーT細胞が活性化の指令を受け取る樹状細胞と接触して、
がん抗原情報を受け取るとき、T細胞側が過剰に活性化しないように
ブレーキとなるシグナルをT細胞内に送り込むT細胞表面分子・CTLA-4、
(2)キラーT細胞が標的となる異常細胞と接触して抗原が標的細
胞にあると認識するとき、T細胞側が過剰に活性化しないようにブレ
ーキとなるシグナルをT細胞内に送り込むT細胞表面分子・PD-1、
(PD-1に結合する相手方の分子・PD-L1ががん細胞側にあることが多
く、キラーT細胞の活性にブレーキをかけるため、がん細胞が殺さ
れずに増えてしまう)、
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があります。
免疫チェックポイント阻害剤の第1号として米国で承認されていたイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)は、メラノーマに良く効く薬として、米国で急速に普及し始めていますが、ついに、2014年4月28日付のJ Clin Oncol誌に、最も心配されていた副作用、自己免疫疾患の一つ「重症筋無力症」が発生したとの症例報告が出されました(Ref. 1)。
抗CTLA-4抗体でキラーT細胞表面分子CTLA-4をふさぎ、T細胞活性化防止ブレーキを外してしまうと、過剰な活性化が起こり、T細胞が自己の正常細胞まで傷害して、自己免疫疾患を発生させてしまうことが、イピリムマブ承認前から知られていましたが、恐るべき自己免疫疾患・重症筋無力症まで発生させてしまうことが明らかになったのです。
この点から推定しますと、自己免疫反応による副作用が比較的少ないとされている抗PD-1抗体(ニボルマブもその一つです)でも、この重症筋無力症が発生しないとは言い切れません。PD-1分子の結合相手となるがん細胞側にあるPD-L1分子に、覆いかぶさってふさぐ作用をする抗PD-L1抗体では、既に重症筋無力症が発生しているからです(Ref. 2)。
免疫チェックポイント阻害剤は、「がん免疫療法の当面の主役」として非常に期待されていますが、その臨床応用には十二分な慎重さが求められます。
Reference
2. Brahmer JR, et al. Safety and activity of anti-PD-L1 antibody in patients with advanced cancer. N Engl J Med. 2012 Jun 28;366(26):2455-65. doi: 10.1056/NEJMoa1200694. Epub 2012 Jun 2.