今回のトピックスは、少し専門的な内容です。少々の忍耐をもって通読していただければ、弊社の
「自家がんワクチン療法」
に対して、協力は難しいという立場の主治医の先生に、患者様がご協力をお願いするときに、背景知識の一つとしてお役に立てると思います。
このトピックスのソースは、免疫学では世界の超一流と言われている学術誌に掲載された論文(Ref. 1)です。
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既にオプジーボ、キイトルーダ等、一般的には免疫チェックポイント阻害剤と言われる薬が、がん治療のために広く使われるようになっています。
意外なことに、これが何故効くのかというメカニズムの説明では、詳細が不明なところがあります。
がん細胞を殺せるキラー細胞(リンパ球の一種です)の表面に出ているPD-1という分子があります。これは細胞分裂のブレーキになるシグナル分子です(錠前の役をしています)。
これに、がん細胞表面に出てくることが多いPD-L1というカギ分子(鍵の役をしています)が結合すると、キラー細胞の分裂増殖に急ブレーキがかかってがん細胞を殺さなくなります。
「PD-1とPD-L1の2つの分子の結合を邪魔するのが、免疫チェックポイント阻害剤の(錠前の鍵穴を塞いでしまう)作用で、キラー細胞にはブレーキがかからないためがん細胞を殺し続けるようになるのだ」
というのが基本的な説明(#A)ですが、それだけでは実はないからです。
これまでの研究では、がん組織の中に、CD8+ T細胞(キラーリンパ球の性質を持つリンパ球です)が多数いるほど、がんの増悪スピードが遅いことが良く知られています。
これは、血中を流れているリンパ球のうち、がん組織中に潜り込んだ(浸潤した)キラー細胞ががん細胞をせっせと殺し続けているため、がんが大きくなるスピードが遅くなるためだろうと簡単に推定できます。
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このことからさらに推定して、筆者も従来は、がん組織の中に潜り込んだ
「キラー細胞はがん細胞を殺しては増え、殺しては増えていく」(#C)
のだと考えていました。
(しかし、この考え方(#C)は間違っていたようです。以下をお読みください。)
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ところが、キラー細胞は、がん細胞を殺すような刺激を慢性的に受け続けると、簡単にくたびれてしまう(疲弊する)現象が知られています。疲弊すると、がん細胞を殺さなくなり、はては自滅して死んでしまいます。
このために、
「免疫チェックポイント阻害剤の作用は、上述の基本的な説明(#A)だけでいいのか?」
という疑問(#Q)が生ずるのです。
上述の基本的な説明(#A)を補足するものとして、
(ア)免疫チェックポイント阻害剤は疲弊するのを防止する(あるいは、疲弊したキラーリンパ球を元にもどして元気にしてしまう)から、キラーリンパ球ががん細胞を殺し続けるためによく効くのだ、という学説があります。
一方で、
(イ)疲弊したキラーリンパ球が消耗してどんどん消滅していっても、それを補って余りある元気で若いキラーリンパ球の候補者(前駆細胞)がどんどん生まれてキラーリンパ球になる、そうさせるのが免疫チェックポイント阻害剤の作用だから、キラーリンパ球が疲弊して消滅しても問題ないのだ、という学説があります。
どちらが正しいのかは議論のあるところでした。
既に、弊社の2018.04.19のトピックス(Ref. 2)
「免疫チェックポイントのどこを阻害すべきか」
において、
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免疫チェックポイントは2段階に大きく分れています。
まずは、
(1)がん抗原が樹状細胞に取り込まれ、そこに未熟なT細胞が接触してがん抗原情報をもらい、キラーT
細胞に分化増殖します。この段階では免疫反応が暴走しないように、CTLA-4分子がブレーキ役をはたします。
抗CTLA-4抗体はこのブレーキをはずす作用があります。
次に
(2)キラーT細胞ががん細胞に遭遇したとき、相手のがん抗原情報を認識して相手を殺します。この段階ではやはり免疫反応が暴走しないように、T細胞上にあるPD-1分子がブレーキ役をはたします。抗PD-1抗体(オプジーボ等)はこのブレーキをはずす作用があります。
(2)の段階で働くキラーT細胞は、増殖しつつも、疲弊して死ぬことが多く、長期間働き続けるわけでは
ありません。
しかし(1)の段階では、キラーT細胞が増殖してくる一方で、あまり増えないが非常に長命のメモリーT細胞に分化していくものが出現します。そのときに、抗CTLA-4抗体(ヤーボイとして知られています)があれば、ブレーキが効きませんから、メモリーT細胞が多数できるというわけです。
メモリーT細胞は、少しのがん抗原情報に接すれば、たちまちキラーT細胞となって増え、相手のがん細胞
を殺しますので、がん再発を防止できるため、再発抑制効果が長く続くことになります。
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と書きました。
このメモリーT細胞が、今回の疑問(#Q)を解くポイントだったのです。
2019年になって、上の(ア)(イ)の議論に決着をつける結果を発表したのが、スイスの研究グループでした(Ref. 1)。
彼らは、がん組織の中に浸潤しているリンパ球(TILと略します)のうち、キラー細胞で、かつ、PD-1分子を発現している細胞がいて、さらにその中に、転写因子Tcf1を発現しているものと発現していないものがいることに着目しました。
転写因子とは、細胞の核の中にあって遺伝子の実態であるDNAから情報を読み取るときに働く、読み取り調節役をする分子です。
しかもこのTcf1は、リンパ球のうちの未熟なT細胞が、免疫記憶を担う中心となるメモリーT細胞に分化するときに必須の因子です。
ここでメモリーT細胞を記号で書くと、
Tcf1+ PD-1+ TIL
となります。TILのうち、Tcf1を発現していないものは、
Tcf1- PD-1+ TIL
と表します。
スイスの研究グループは、巧妙なマウス実験で、Tcf1+ PD-1+ TILは、分裂増殖したとき、自分自身と同じ
Tcf1+ PD-1+ TIL と、
それよりも分化している
Tcf1- PD-1+ TIL
を生み出すことを示しました。
分化している Tcf1- PD-1+ TIL は、がん細胞を殺す武器となる Granzyme B という消化酵素を産生していますので、分化のよい目印になります。
Tcf1- PD-1+ TILは、Granzyme Bをがん細胞中にぶち込むことによって、がん細胞を殺します。分化して正にキラー細胞そのものになっているのです。
しかし疲弊しやすく、免疫チェックポイント阻害剤を投与していても、消耗して死んでいく運命にありました。
一方で、自分自身と同じ Tcf1+ PD-1+ TIL は分化せずにがん組織の中で、がん抗原(実際にはそのモデルとしてウイルス抗原を「がんワクチン」として投与)で刺激したとき、良く増えます。
もちろん免疫チェックポイント阻害剤を投与したときには多数生み出されます。
Ref. 1中には、がん組織の中に潜り込んだTILは、自分自身と同じ Tcf1+ PD-1+ TIL として増えてから Tcf1- PD-1+ TIL に分化し、それからがん細胞を殺すことが、丁寧に記載されています。
つまりは、筆者が従来から考えていた
「キラー細胞はがん細胞を殺しては増え、殺しては増えていく」(#C)
という考え方(#C)ではなく、
実際は、
「キラー細胞の元となる細胞が増えては分化してがん細胞を殺し、また増えては分化して殺していくのだ」(#D)
という考え方(#D)が正しかったのです。
これらの考え方の違いは、がん免疫療法を他の治療法と組み合わせて用いようとするとき、微妙ながら無視できない影響を与えます。
例えば、従来からある低分子抗がん剤(ほとんど全部が細胞毒です)を大量投与しつつ、免疫チェックポイント阻害剤を併用する方法は(抗がん剤は体内に数週間は残りますので)、明らかに分裂増殖するリンパ球に対して相反する作用を示しますから、併用したら考え方(#C)でも考え方(#D)でも、おかしいとわかります。
しかし、免疫チェックポイント阻害剤と放射線治療を組み合わせる場合は(放射線は照射した瞬間しか作用しませんので)、
(考え方(#C)なら)
免疫チェックポイント阻害剤、あるいはがんワクチン、で増えた(キラー細胞の)若い前駆細胞が分化してがん細胞を殺した後では、残存しているかもしれないがん細胞と一緒に放射線照射して、さらに増えようとするキラー細胞を放射線で殺してしまっても構わないではないか、
となるかもしれません。しかし、この考え方(#C)を採用せず、
(考え方(#D)なら)
免疫チェックポイント阻害剤、あるいはがんワクチン、で増えた(キラー細胞の)若い前駆細胞が分化してがん細胞を殺すようになる前に、がん組織内でさらに増えようとしている若いキラー細胞前駆細胞を、放射線で殺してしまっては元も子もないではないか、残存しているかもしれないがん細胞への放射線照射はしばらく後廻しとしよう、
となる可能性が高いのです。
実際には、免疫療法(上の例では免疫チェックポイント阻害剤、あるいはがんワクチン)と併用された放射線治療について、具体的な臨床データが蓄積されてこないと、はっきりした影響はわかりませんが、今後の臨床現場で使われる治療法の組み合わせ方がかなり変化してくるだろうと考えられます。
References
1. Siddiqui I., et al.
Intratumoral Tcf1+ PD-1+ CD8+ T Cells with Stem-like Properties Promote Tumor Control in Response to Vaccination and Checkpoint Blockade Immunotherapy.
Immunity, 2019;50(1):195-211.e10. doi: 10.1016/j.immuni.2018.12.021. Epub 2019 Jan 8.
2. 免疫チェックポイントのどこを阻害すべきか
→ https://cell-medicine.com/topics/%e5%85%8d%e7%96%ab%e3%83%81%e3%82%a7%e3%83%83%e3%82%af%e3%83%9d%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%88%e3%81%ae%e3%81%a9%e3%81%93%e3%82%92%e9%98%bb%e5%ae%b3%e3%81%99%e3%81%b9%e3%81%8d%e3%81%8b/
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既に、大学教授で、この連携方式により、ご担当の患者様の自家がんワクチン療法受診を実現されている先生方も何人もおられます。具体的な方法は弊社まで直接お問い合わせください。
新たに「自家がんワクチン療法」を自院でも連携方式で開始したい病院の先生方は、どうか遠慮なく弊社にご連絡下さい。Web会議にて直接説明申し上げます。
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肝がんでは、すでにランダム化比較対照臨床試験で有効性が証明されているエビデンスレベルの高いがん免疫療法です。
★“自家がんワクチン療法”は「厚労省への届け出は不要です」★
自家がんワクチンは生きている細胞を含まないため培養不要で、 再生医療等安全性確保法でいう
「細胞加工物」(人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの)に該当しないためです。
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