トリプルネガティブ乳がん再発後に放射線と自家がんワクチンによる集学的治療を受診、10年以上も健在 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

トピックス

トリプルネガティブ乳がん再発後に放射線と自家がんワクチンによる集学的治療を受診、10年以上も健在

症例のご紹介 

 乳がんは手術後でも、長い期間がたってから再発や遠隔転移(*)を起こすことがあります。

(*)乳房とその直近の所属リンパ節よりも遠方の臓器に転移すること。肺、肝、脳、骨への転移等がよく知られています。

 そうなれば、最初の手術時点の乳がんのステージが早期の0~IIIであったとしても、ステージIVの進行がんとなったと診断されます。

 その予後は、乳がんのタイプによって異なりますが、半数の方が亡くなる期間(全生存期間中央値、mOS)は、
 ・ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん:44.8ヶ月(=3.73年)
 ・HER2陽性乳がん:58ヶ月(=4.83年)
 ・トリプルネガティブ乳がん:14.2ヶ月(=1.18年)
とのことです(Ref. 1、2)。

 この数値からでも、トリプルネガティブ乳がんが遠隔転移した場合の予後がダントツに短く、長生きは難しいことがわかります。

 また、その際の治療法としては、薬物療法を中心とした集学的治療を行う(Ref. 1)とされていますが、現在は、免疫療法として、免疫チェックポイント阻害剤(キイトルーダ)が使える場合があります。

 しかし、2017年2月以前は、キイトルーダが未承認でしたから、遠隔転移したトリプルネガティブ乳がんに対する治療法は、強い副作用がある旧来の化学療法しかありませんでした。

 以下の方は、遠隔転移とは言えませんが、乳房所属リンパ節より外側にあるリンパ節(領域リンパ節)にまで転移した方の場合です。

 領域リンパ節転移であっても、一般にトリプルネガティブ乳がんでは、その術後再発例では予後がやはり短いと言われています。

 この方は、旧来の化学療法を一度受けたとき、あまりの強烈な副作用に参ってしまい、再度の化学療法を拒否、自家がんワクチン療法と放射線治療を併用されました。

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〔症例1105〕

 2009年4月、ステージIIAの乳がんで右乳房を全摘、トリプルネガティブ乳がんで、化学療法(エンドキサン、ドセタキセル、ゾラデックス)。2010年1月、腋窩リンパ節2ヶ所に転移、しかし再度の化学療法を拒否、自家がんワクチンと放射線治療を併用した集学的治療を受診。以後、乳がん再発はなし。別途、2017年に卵巣がんの診断、11月に手術。以後は全く問題なく、2022年10月現在でも健在。
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 この方は、予後が短いトリプルネガティブ乳がんの再発例であるにもかかわらず、自家がんワクチン接種からは12年半以上も健在です。
 ただし、この方では、自家がんワクチンが効いたのか放射線治療が効いたのかは、実は判然としていません。片方ではなく、両方で効いたのかもしれません。

 なお、乳癌診療ガイドライン(Ref. 1)には、

V. 転移・再発乳癌、
 4.治療方針、
  c.放射線療法  の項で、
   2) 遠隔転移

には、乳がん全般に対して、

 ・骨転移・脳転移に対して、「原則、放射線療法では治癒は望めないが、…….」

との記載があります。そのため、遠隔転移の場所によっては、放射線治療だけでは効果が期待できない場合があります。

 しかし、
  c.放射線療法
   1) 局所・領域リンパ節再発  の項では、
  
・放射線療法が適応となる局所・領域リンパ節再発に対しては、
  「放射線療法を含む集学的治療により長期間の無病生存期間の継続を目標とする。」
とありますので、

上記の〔症例1105〕では、

「放射線療法を含む集学的治療として、自家がんワクチン療法が加わった集学的治療が実施された結果」

だと解釈できます。放射線療法を含む集学的治療として、通常なら採用される標準的な化学療法を拒否していましたから、通常の集学的治療ができなかったのは明らかです。

 このような場合、放射線治療に併用した自家がんワクチンが効いたのか否かは判然としなくても、化学療法と比較して問題となる副作用が非常に少ないと考えられている自家がんワクチンは、

 「放射線治療の優れた伴奏者になる」

と考えられます。

 そして、この伴奏者の働きの原理は、ChenとMellmanが提唱した、

   「がん免疫サイクル」(Ref.3, 4)
  解説はこちら  →  https://cell-medicine.com/topics/2328

に見てとれます。

 つまり、放射線治療によりがん細胞から放出されるがん抗原を、自家がんワクチンにより活性化されたキラーリンパ球が受け止め、さらに活性化して残存がん細胞を殺すようになるというわけです。

 原則としては、明瞭なエビデンスのある治療法の組合わせが望ましいのは言うまでもありませんが、強い副作用を忌避する患者さまに対しては、上述のように、

 「優れた伴奏者を提供する

ことも、がん治療の一環として意味のあることと考えられます。

 がんの放射線治療を手がける先生方には、がん免疫療法との組み合わせ療法をぜひ前向きにお考えいただければ、たいへん有難く存じます。

References
1. 日本乳がん学会編、乳癌診療ガイドライン
 ①治療編2022年版、V.転移・再発乳癌、2.項、―金原出版、2022.
2. Grinda T, et al.
 Evolution of overall survival and receipt of new therapies by subtype among 20446 metastatic breast cancer patients in the 2008-2017 ESME cohort. ―ESMO Open;6:100114.
3. Chen DS, and Mellman I.
 Oncology Meets Immunology: The Cancer-Immunity Cycle. ―Immunity 39, 1-10, 2013.
4. Mellman I, Chen DS, Powles T, Turley SJ.
 The cancer-immunity cycle: Indication, genotype, and immunotype. ―Immunity 56:2188-2205, 2023.

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