ご存知の方も多いと思いますが、がんが骨に転移した場合、患者様の予後は思わしくなく、余命は明らかに短くなることが広く知られています。
例えば、「乳がんが骨転移したら、あとはあの世へ電車道だ」との表現まであるのです。
→ https://cell-medicine.com/topics/1098
どんな治療をしても(放射線、抗がん剤、ホルモン剤、抗体医薬、骨吸収抑制剤を使っても)治せない乳がん骨転移巣があるということは、「体内に爆弾を抱えているのと同じ」なのです。
骨に転移した乳がんに対する治療法で「治せると期待できる方法」は、かつては「ない」とされていました。
例えば、2003年から2010年の間の論文では、
・総計8051例の解析でも、放射線治療では完治できない(Ref. 1)
・ゾレドロン酸、アロマターゼ阻害剤でも治癒は期待しがたい(Ref. 2)
・標準化学療法(CEF)でも難治性である(Ref. 3)
というありさまでした。
しかし、それから16年もたった現在ではどうか、と昨日時点で生成AIに問い合わせてみました。
以下がその回答例ですが、ここで注意すべきは、全く同じ質問を出しても生成AIによって違う回答が出てくるという点です。
とりあえず筆者が、「骨転移した乳がんを治せると期待できる治療法はありますか?」と問い合わせたところ、以下のような回答が出てきています。
・ChatGPTによれば、
—————****—————
乳がんが骨に転移した場合(骨転移乳がん)の治療は、「根治を目指す」というよりも、がんの進行を長期間抑え、痛みや骨折などの合併症を防ぎながら生活の質を保つことが主な目標になります。
近年は治療の進歩により、骨転移があっても長期間コントロールできるケースが増えています。
治療法は乳がんのタイプ(ホルモン受容体、HER2、トリプルネガティブなど)によって大きく異なります。
—————****—————
(ここでいう根治とは、治ったこと、治癒と同義です)
また、
・Copilotによれば、
—————-
【骨転移乳がん治療の全体像】
骨転移は乳がんの遠隔転移の中で最も多く、適切な治療により長期間のコントロールが可能とされています。
治療は以下の3本柱で構成されます:
1.乳がんそのものを抑える全身治療
2.骨を守る治療(デノスマブ/ゾレドロン酸)
3.痛みや骨折を防ぐ局所治療(放射線・手術)
これらを組み合わせることで、QOLを保ちながら長期生存を目指すことができます。
—————-
という状態で、どこにも「治せると期待できる方法」があるとは記載されておりません。
(Ref. 3)の論文発表から16年たった今も「ない」のです。
では、「根治を目指す」ことなく、長期間コントロールできるだけで(とはいえ余命が明らかに短くても)良いのか、というのが大きな課題として残されているのが現実です。
そこで、もう一度、視点を変えてChatGPTに質問してみました。
(以下では、「免疫チェックポイント阻害剤」では、乳がんが治る(=完治・CRが得られる)ことはないという現時点での一般常識を前提においています。)
Q:——— 2026年6月現在で、免疫チェックポイント阻害剤を含 まないがん免疫療法で、骨転移した乳がんを治せる、と いう学術論文はありますか? ———
その答えは、
A:————————
結論から言うと、2026年6月現在、「免疫チェックポイント阻害剤(PD-1/PD-L1阻害薬など)を使わない免疫療法だけで、骨転移した乳がんを確実に治せることを示した高品質な学術論文」は存在しません。
ただし、「治癒の可能性を示唆する症例報告」や「長期完全寛解(complete remission)」を報告した小規模研究はいくつかあります。
<現在の標準的な医学的見解>
骨転移を伴う乳がん(Stage IV乳がん)は、一般に
- 完全な根治(cure)
- がん細胞の永久消失
を目標とするより、
- 長期生存
- 病勢コントロール
- QOL維持
を目標とする疾患と位置付けられています。現在のガイドラインレベルでは「骨転移乳がんは通常は治癒不能」とされています。
———–
というものでした。
そこでさらに、
Q:~~~~~ 「治った」と報告された免疫療法研究はありますか? ~~~~~
と聞いたところ、
A:~~~~~—–*☆☆☆—–~~~~~
- 自家腫瘍ワクチン(AFTV)
2018年に日本の研究グループが報告した後ろ向き研究では、
- 骨転移乳がん20例
- 自家ホルマリン固定腫瘍ワクチン(AFTV)
- 放射線や薬物療法との併用
で、
– 3例が17か月以上の臨床的完全寛解(cCR)
– 著者は「骨転移乳がんは治癒可能かもしれない(may be curable)」
と記載しています(Ref.4)。
ただし重要なのは、
- 無作為化比較試験ではない
- 症例数20例のみ
- 免疫療法単独ではない
- 「治癒」ではなく「臨床的完全寛解」
である点です。医学界では治療法確立の根拠とはみなされていません。
~~~~~—–*☆☆☆—–~~~~~
との回答でした。
なんと、この(Ref.4)は、2018年の筆者らの論文です。
しかも、筆者らは、骨転移乳がん治療法“確立”の根拠として発表したわけではなく、
「このような治療効果が、ともかくも、観察されましたよ」
という症例報告で、いわば初期段階の臨床研究の成果(世界の一番乗り!)という位置づけでした。
しかも、上記では、「17か月以上の臨床的完全寛解(cCR)」とされている3例とも、自家がんワクチンに放射線治療を併用していましたが(上述のRef. 1のとおり8051例の解析でも、放射線治療では完治できない)、現在でも健在で、
CMI0406(cCRとなってから16年経過。放射線科専門医は治療開始4年後の2010年12月に「治った」と言ってよいと同意していた症例)
CMI0984(cCRとなってから10年超経過)
CMI2040(cCRとなってから11年経過)
となっていますから、(Ref.4)の論文の著者の一人としては、この3例については、「そろそろ、治ったといってもいいんじゃないか」と考えています。
しかし、どうやら現在の生成AIは、筆者らのような個別症例の報告レベルでの評価ではなく、
無作為化比較試験で、免疫療法単独の効果が判定できる、第III相臨床試験のような臨床試験としては
最終段階にあたる「検証的試験」で、骨転移がある乳がん患者“集団”を対象にして、
治癒したという証明がなければ「治せる治療法だ」とは認めない、という(いわば非常にお堅い)立場で回答を出しているようです。
なお、生成AIの回答では、同じ質問でも質問の回ごとに違う答えが返ってくることもあります。
生成AIの評価を丸飲みにするのは、まだまだ早すぎる時代だと思います。
References
1.Falkmer U, et al.
A systematic overview of radiation therapy effects in skeletal metastases.
Acta Oncol 2003;42:620-633.
2.Lipton A, et al.
Zoledronic acid and survival in breast cancer patients with bone metastases and elevated markers of osteoclast activity.
Oncologist 2007;12:1035-1043.
3.Kimura M, et al.
Randomized trial of cyclophosphamide, epirubicin, and fluorouracil chemotherapy compared with cyclophosphamide, methotrexate, and fluorouracil with node-positive breast cancer in Japan.
Breast Cancer 2010;17:190?198.
4.Kuranishi F, et al.
Rate of Clinical Complete Response for 1 Year or More in Bone-Metastatic Breast Cancer after Comprehensive Treatments including Autologous Formalin-Fixed Tumor Vaccine.
Int J Breast Cancer, 2018;4879406.
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