循環血流を模したヒトがん3次元モデルで 最新のがん免疫療法に関するトピックスをご紹介します。

トピックス

循環血流を模したヒトがん3次元モデルで

最新の学会から 

がん治療薬の開発の歴史をみると、動物を用いた実験は必須だと認識されてきました。

特に、マウスやラットに移植したがん細胞ががん塊(腫瘤)を形成し、どんどん大きくなる過程に抗がん剤(新薬候補)を投与したとき、がん塊が数週間でみるみる小さくなることが、抗がん剤の効果そのものを現していると考えられてきました。

そのため、強い副作用があってもものともせず(マウスは文句を言いませんので)、毒薬・劇薬が良い抗がん剤だとして選択され、現在も臨床で広く使われています。

また、このようながん塊縮小を指標にしたがん治療効果は、放射線治療の開発過程でも用いられてきました。

しかし、全世界で勃興している動物愛護運動を背景に、現在では、動物実験を行うのは簡単ではなくなってきています。

日本でも2005年6月22日に、全会派一致での議員立法により改正動物愛護管理法が公布され、2006年6月1日より施行されました。

特に、がん免疫療法の開発では、殺がん細胞効果を発揮する細胞性免疫反応の様相がヒトとマウスではかなり異なるため、注意が必要です。

そこで、動物実験に頼らないでできる、ヒトの体内を模した体外実験モデルが長らく探索されてきました。
培養ヒト細胞を用いた「動物実験代替法」は、医薬品や化粧品の安全性試験のためだけに限らず、今や、全世界で使用されています。

しかし、これまでに構築されてきたヒト細胞を用いた体外実験系には、一つの大きな欠点がありました。

体内には、血流が循環していて血液細胞が流れています。しかも、末端の組織に注目すると、血流は一方向だけに流れます。

このシステムを体外で模倣しようとするために、培養液をポンプにつないで、培養面にはりついた細胞の表面を流すという方式が採られます。

しかし、そこに問題がありました。

通常の実験で汎用されるぺリスタポンプでは、シリコンゴムチューブを、チューブ外側に設置したタイヤのような回転子でしごいてチューブ内の培養液を一方向に押しやり、液体を流します(こうすれば培養液に回転子が直接触れないので無菌性が保てます)。

しかし、ここに血液細胞を培養液に懸濁して流すと、血液細胞がチューブのしごきに耐えられず、潰されてしまい、どんどん死んでしまうのです。

そこで、Chun-Wei Chiらは、注射筒に培養液を満たし、押子(プランジャー)を前後して動かして培養液を流すことにし、流路の途中にバルブを設け、流れ出した培養液を受けて貯留するリザーバーを設置しました。

このとき、バルブを複数セットしておいて、各バルブの開閉を制御することによって、培養液は注射筒とリザーバーの間を往復しますが、細胞の培養面上では一方向にだけに流す方法を開発しました。

このときの細胞培養面は3層とし、
下段をヒトがん細胞とヒト線維芽細胞を混ぜた培養層に、
中段を孔あきの薄いセパレート膜とし、
上段にヒト血管内皮細胞を一面に撒いた血管層として、
その上を、キラーリンパ球を懸濁した培養液を一方向に流す、
ようにしたのです。

そうすると、培養液中を流れるキラーリンパ球は、ときどき血管内皮細胞に付着します。そのシグナルを血管内皮細胞は中段のセパレート膜の孔を通じて、下段の線維芽細胞またはがん細胞に伝達できます。

一面のピッタリとした隙のないシート状になっている血管内皮細胞が、キラーリンパ球のために隙間を空けて、下段のがん細胞層に潜り込むのを許容すると、キラーリンパ球ががん細胞を殺す、という、がん免疫反応モデルが稼働することになります。

このシステムは、まさに、体内の抹消のヒトがん組織を模倣した細胞群の構成になっています。

しかも、このシステム全体を、小さなチップに作り込んでしまったのですから、体外で便利に使いやすい
“がんの動物実験代替法”ができることになりました。

その結果、判明したのは、
再構成した乳がん組織では、がん由来の血管内皮細胞はキラーT細胞の浸潤を妨害する、
この妨害作用は、抗PD-L1抗体で緩和される
がん組織中の線維芽細胞は、正常線維芽細胞に比べて、キラーT細胞の浸潤を減弱させ、がん細胞のアポトーシス
. (自死)を減少させる、
ということでした。

この実験では、どうやら抗PD-L1抗体は、PD-L1を発現するがん細胞の表面に直接結合するよりも、がん由来の血管内皮細胞に対する作用の方がメジャーだったようです。

(以上Ref. 1、今年1月5日に発表されたばかりです。)

ヒト体内のままでは、抗PD-L1抗体の作用を定量的に評価するのはたいへん難しいのですが、このようなチップを使えば、がん免疫療法の改良開発に直結する方法を手に入れることができる時代に入ったのです。

これによって、がん免疫療法の開発は、大幅にスピードアップされることになるでしょう。

Reference

1. Chun-Wei Chi, Yeh-Hsing Lao, A. H. Rezwanuddin Ahmed, Siyu He,Taha Merghoub, Kam W. Leong and
Sihong Wang,
Enabling continuous immune cell recirculation on a microfluidic array to study immunotherapeutic interactions in a recapitulated tumour microenvironment.
Lab on a Chip, published 05 Jan 2024. DOI: 10.1039/d3lc00662j

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