樹状細胞は、抗原を負荷すると体内のリンパ球を活性化させることができる細胞です。
この細胞とがん細胞を融合させて大量のがん抗原を樹状細胞に発現させる方法が開発されています。
1990年代後半になって、組織器官を作っている主な細胞群の間に潜り込んでいる細胞で、手足をあちこちに伸ばした形をしている細胞が、免疫反応で抗原をリンパ球に提示する能力が非常に大きい重要な細胞だということがわかってきました。この細胞を体外に取り出し培養すると、シャーレの表面に張り付き、まるで木の枝が細かく張り出したような形の偽足を出します。そこで、樹状細胞(Dendritic cells)と呼ばれるようになりました。この強力な抗原呈示細胞に、がん抗原を添加し細胞表面のMHC分子に載せておくと、末梢血リンパ球から容易にCTLを誘導できることがわかりました。
ベルギーのテリー・ブーンのグループでは、メラノーマのがん抗原ペプチドを載せた樹状細胞を(Int. J. Cancer, 63: 883-885, 1995)、F・ネッスルらはがん細胞溶解液を載せた樹状細胞を(Nature Med., 4: 328-332, 1998)、皮膚がん患者に注射し有望な治療成績が出たと発表しています。
樹状細胞は、骨髄細胞からでも、末梢血からでも容易に培養できます。ただし、培養中ではほとんど増えません。そのため調製には大量の血液細胞の採取が必要となります。
体外では、未熟な樹状細胞をサイトカインによって強制的に分化させ、抗原提示能力が非常に強い成熟細胞にすることができます。それに体外で様々ながん抗原を載せたり、樹状細胞に直接がん抗原遺伝子を導入したり、樹状細胞とがん細胞を融合させて大量のがん抗原を融合樹状細胞に発現させる方法が開発されてきました。これらはまとめて「樹状細胞ワクチン」といわれています。
抗原を負荷された樹状細胞は皮下注射するだけでリンパ節に移動し体内のリンパ球を活性化させることができます。しかし最近、樹状細胞にも種類があって、もっぱらがんを殺すキラーリンパ球を活性化するタイプと、逆にがんを殺すキラーリンパ球の邪魔をするリンパ球を活性化するタイプがあることが判ってきました。一概に樹状細胞ワクチンを投与すればがん治療ができるというものではないのです。
樹状細胞を発見したのは、カナダ出身の免疫学者ラルフ・マーヴィン・スタインマンです。彼は2007年にすい臓がんにかかり、自分で開発した樹状細胞療法を自分自身に試していました。2011年10月3日、スタインマンにノーベル生理学・医学賞が授与されることが発表されましたが、その3日前にスタインマンはすい臓がんで亡くなっています。
樹状細胞ワクチンの特徴
長所
樹状細胞に取り込ませるがん抗原の種類には、生のがん細胞を溶解したもの(がん抗原たんぱく質が含まれている)、がん抗原たんぱく質だけ、がんペプチドだけ、などがあります。ワクチン作成上、がん抗原の種類を選べる自在さがあり、患者様の状況に合わせた微調整がしやすくなります。
短所
もともと体内にある患者様本人の樹状細胞を、いったん体外に取り出して培養し、分化させ成熟させた上で、がん抗原を取り込ませるという非常に面倒な操作が必要です。樹状細胞は体外で増えないため数に限りがあり、取り込ませることができる抗原量も限定されます。そのため、繰り返し注射数が多くなり、1回1回の注射分は安価でも、この治療全体としてはどうしても高価になります。また、血中に流れている樹状細胞を、チューブを血管につないで体外に取り出す操作では、白血球全体を機械で取り出してしまう場合が多く、(1回きりであればあまり問題ないのですが繰り返すと)、患者様の体力的な負担が重くなります。